テーマ: 「DX & AI時代のPMを探る」
~草の根の社内DX推進事例の紹介~
・・・ 大橋 博明 (横河電機株式会社)
<議論概要> 文責:岩下
<大橋さん講話>
横河電機株式会社の大橋です。2019年に中途入社し、現在はグリーントランスフォーメーション(GX)に関する事業開発や技術開発を主導しています。昨年度はAIに関する社内横断プロジェクトに従事していました。今回の事例は、昨年度の取り組みを紹介するものです。
私は2001年に荏原製作所に入社し、主にオイルガスや発電所向けの高圧ポンプやタービンポンプの基本設計や技術営業を担当していました。
その後、2003年から2004年にかけて、東洋エンジニアリングの機器設計部回転機グループに所属し、プラント関係の仕事に従事しました。元々、この分野でエンジニアとして働いていた経験があります。
2014年には、アメリカに本社を置く外資系企業ウッドワードジャパンに転職しました。ここでは、蒸気タービンのガバナーシステム、タービンコンプレッサーの統合制御システム、ガスタービンの制御システムなどのプロジェクトマネジメントを担当しました。
ウッドワードジャパンでは、プロジェクトマネージャーになるためにPMP(ProjectManagement Professional)の資格が必要だという規則があり、私はそのことを転職後に知りました。急いで資格取得に取り組み、2015年にPMPを取得しました。これがプロジェクトマネジメントとの出会いとなりました。
PMPを取得するために、事前に35時間のPDU(プロフェッショナル開発単位)を取得する必要がありました。そのため、産業技術大学院大学(AIIT)で事前学習を行いました。この大学は品川にあり、講座を受けた際に講師から「うちの大学院に来ないか」とお誘いを受けました。
その結果、翌年に産業技術大学院大学の情報アーキテクチャ専攻に入学し、約2年間情報系の勉強をしました。大学院の2年目には、脳外科や脳神経内科、外科の先生方とともに、脳卒中を救急隊の観察情報から特定するための共同研究を行いました。この研究を通じて、統計分析の技術を学びました。
その後、横河電機に入社し、AIに関する取り組みを行うことに繋がりました。以上が私の簡単な自己紹介です。
早速今日の話題に進めさせていただきます。
タイトルは「DXとAI時代のプロジェクトマネジメントを探る—社内DX事例の紹介」です。
この資料におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義についてお話しします。
世の中ではDXという言葉が便利に使われすぎており、本来の意味が薄れている部分もあります。経済産業省が定義するDXを基に、過去の産業革命を振り返り、未来シナリオを考慮しながら、DXの本質について考察し、この資料におけるDXの定義を明確にしていきたいと思います。
社内でDXに関する課題を見つけ、コミュニケーションを通じて、課題の背景や解決策へのニーズを確認した経験についてお話しします。具体的には、ソリューションのプロトタイプを提供し、その中で得られた学びを共有します。
日本のデジタル競争力がグローバルな観点で低迷している現状を踏まえると、トップダウン型のDX推進だけでは限界があると感じています。DXの本質は、経営管理層だけでなく、全ての業務にデータを活用した意思決定を浸透させることにあると考えています。企業文化全体でDXを適用することが重要です。
日常業務におけるDXの推進こそが、競争力向上の鍵であると信じています。そのため、日常業務にDXを適用するための考察を共有します。
最後のパートでは、AIを活用してプロジェクトマネジメントの未来を予測し、それを基に今後のプロジェクトマネジメントの在り方について考えていきます。工業化の時代に誕生したウォーターフォール型のプロジェクトマネジメントと、情報化社会におけるアジャイル型のプロジェクトマネジメントが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展の中でどのように進化していくのかを、皆様と共に未来を想像しながらフランクに議論できればと思っています。
経済産業省によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の定義を確認します。DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズに基づいて製品やサービス、ビジネスモデルを変革することを指します。さらに、業務そのものや組織プロセス、企業文化をも変革し、競争上の優位性を確立することが求められます。
重要なのは、デジタルツールの導入がDXそのものでないという点です。データやデジタル技術は、あくまで変革の手段に過ぎません。単にデジタルを使った製品やサービスを提供するだけでなく、データやデジタル技術を活用した業務プロセスの改善や、デジタル活用がしやすい組織作りに取り組む必要があります。
ビジネス環境の変化に対応し、競争上の優位性を確立することが重要です。企業は環境の変化に耐え、市場で淘汰されることなく、成長し続けることを目指しています。
経済産業省が発行した「DXレポート2.2.1」に基づく内容です。全てを読み上げることはできませんが、いくつかの重要なポイントを整理します。
製品やサービスの開発においては、デザイン思考やDevOps(開発と運用の統合)が取り入れられています。また、競争のスタイルが「競争」から共に作る「共創」へと移行していることも注目されます。
クラウドコンピューティングの利点を最大限に活用したサービス展開や、データに基づく意思決定が日常的に行われるようになってきています。これらはすべて、現在の「ニューノーマル」として定着している様子が報告されています。この状況については、特に違和感を覚えることはなく、自然な流れとして受け入れられています。
現在、デジタル社会やデジタル産業は、ソサイエティ5.0の一側面と考えられます。この情報社会がソサイエティ5.0に移行する過程で、「第4次産業革命」が大きな役割を果たしています。
ここでは「Connected Industories(コネクテッドインダストリーズ)」という概念があり、産業の変革を構成する要素の一つとしてデジタルトランスフォーメーション(DX)が位置づけられています。
歴史を振り返ると、これまでに3度の産業革命を経験しており、第一次産業革命では蒸気機関が、第二次産業革命では電力モーターが、そして第三次産業革命ではコンピューターが変革の原動力となりました。これらの産業革命がテクノロジーや社会に与えた影響を知ることは、DXを考える上での参考になるでしょう。
第一次産業革命の工場は、自然光に依存しているため、昼間しか稼働できませんでした。主な動力源はベルト伝達で、動力を遠くに伝えるのが難しく、工場のレイアウトに制約がありました。また、ベルトに挟まれる危険や、石炭を燃料とするために火が落ちると再起動が大変で、常に石炭を供給し続ける必要がありました。これにより、メンテナンスも大規模でした。
一方、第二次産業革命の工場では、電気の導入により夜間でも稼働可能になりました。配電が可能となったことで、工場内のレイアウトを加工プロセスに合わせて配置できるようになり、流れ作業が実現しました。これにより、ベルトによる動力の必要が減り、安全性が向上しました。必要な時に電源を入れることで効率的に稼働できるようになり、作業員の負担も軽減されました。石炭が不要になり、作業環境もクリーンになったという特徴があります。電力の活用が生産活動や生産性、労働安全の改善に大きく貢献していることが言えます。
次に、社会に与えたインパクトについて見ていきたいと思います。
明治23年11月27日に第1回帝国議会が開かれた際、伝統的な電力が使用されましたが、漏電による事故が発生し、議事堂が全焼しました。この事故を受けて、当時の人々は電力に対する理解が非常に浅く、ガラス玉の中に火を閉じ込めた程度の認識だったようです。その結果、漏電の影響で混乱が起きました。
この事故を機に、石油販売会社がネガティブキャンペーンを展開し、電灯の悪影響を宣伝する事態が発生しました。民間主導で電力技術の社会実装が進められていましたが、国の関与を求める声が高まりました。
最終的に、逓信省が監督責任を負うことになり、1911年に旧電気事業法が整備されました。技術者の資格認定制度が導入され、電気主任技術者の資格を持つエンジニアの雇用も進んでいます。これに伴い、技術の活用を支えるために、法制度や教育システム、雇用の形態が変化してきました。
現在、第4次産業革命がもたらす影響は、AI技術、特にチャットGPTやフェイクニュースが社会に与える影響と似ていると感じています。そこで、第4次産業革命が「ソサイエティ5.0」に与える影響を考察し、仮説を立ててみました。
ソサイエティ5.0の社会では、国家レベルでの産業構造や法制度が変わり、企業もデータやデジタル技術をビジネスモデルの中心に取り込むことで、様々な業種でビジネスモデルの変革が進むでしょう。この変革に伴い、業務や組織プロセス、企業文化、さらには風土までも大きく変わることが予想されます。
経済産業省が定義するデジタルトランスフォーメーション(DX)について、再考してみたいと思います。経済産業省の担当者は、過去の産業革命や産業の歴史について詳しいと思います。新しいテクノロジーを活用して成長した国内外の企業の事例研究も行っているでしょう。私が担当なら、過去の歴史から学び、この変革の波に乗り、日本の産業が国際的に活性化する可能性を見出すと思います。
DXは、第4次産業革命による変化をチャンスと捉え、受動的ではなく能動的に変化を取り入れ、国や企業の成長につなげようとする産業政策の一環であると言えるでしょう。しかし、私にはその定義が単なるスローガンのように感じられる部分もあります。具体的には、DXは第4次産業革命を構成するさまざまな転換要素の一つであり、過去の第3次産業革命ではコンピュータや情報技術がイノベーションの原動力となり、情報社会を形成してきました。これからは、Society 5.0に向けて、データやAIが社会変革を先導する役割を果たすと考えます。
本日お話しするのは、日常業務にどのようにDXを適用しているかについての事例です。
AIに関する組織横断的な取り組みの一環として、私が経験したことをお話しします。
この取り組みは2023年11月から始まりました。このイニシアティブの中で、社内ウェブセミナーの事務局も担当していました。
社内では、ウェブセミナーの申し込みを受け付けるためのシステムを使用しており、応募者リストや参加者リストを作成しています。また、アンケートをMicrosoftフォームで実施し、その結果をまとめる作業も行っています。
これらのデータを整理するために、Pythonというプログラミング言語とJupyter Notebookという環境を使って、データの前処理を行いました。具体的には、共通のメールアドレスを使ってデータを結合し、集計する作業をしていました。
データの処理にかなりの時間がかかりましたが、何度も作業を重ねるうちに、プログラムの完成度が上がり、効率的に処理できるようになりました。これにより余裕ができて、ふと疑問に思ったのは、社内の他の部署がウェブセミナーのデータをどのように活用しているのか、ということでした。
データ活用は非常に複雑で、例えば応募者リストからキャンセル者や重複登録者を処理し、集計する必要があります。また、参加者リストの処理や応募者と参加者のデータを突き合わせて、所属を特定する作業も必要です。さらに、アンケートの結果を参加者リストと照合し、未回答者を特定してフォローアップする作業も含まれています。このように、データ処理には多くの工程があり、その全てを理解し、効率的に行うことが求められています。
社内ウェブセミナーの開催に関して、応募者リストや参加者のアンケート結果を分析する際に、データ活用に苦労している人がいることに気づきました。そこで、AIに関する知識があるメンバーとの情報共有を通じて、困っている人を助けたいと考えました。
実情調査に先立って、2つの仮説を立てました。
・データ活用に困っているため、自動化ツールを提供してほしいというニーズがある。
・自力でデータ処理を行えるようになりたいという人が多いため、関連するトレーニングの提供が求められている。
調査の対象は、社内で頻繁にウェブセミナーを開催している3つの組織です。仮に「部門A」「部門B」「部門C」とします。調査方法としては、過去に自分が実施した社内ウェブセミナーの事例を共有し、意見交換を行いました。具体的には、以下のようなスケジュールを基に進めました。
・全体スケジュールの共有
過去のウェブセミナーの実施スケジュールを提示し、企画のドラフト提案や合意、参加者募集の開始時期、アンケート作成、進捗確認、そして実際のセミナー開催日などを共有しました。
・アンケート結果の集計と報告
アンケートの回収や集計作業のスケジュールを説明し、最終的な集計結果を報告しました。さらに、セミナー企画書のドラフトや合意版、セミナー当日のプログラムなども共有し、実際に使用するデータも見せました。
・部門Aからは、突然セミナー開催の依頼が舞い込み、外部の登壇者との調整やセミナー準備に追われ、データ処理に時間が取れない状況であり、AIがその作業をしてくれると助かるとの要望がありました。
・部門Bでは、会議やアンケートに別の有料サービスを利用し、データ集計はExcelで行っています。回数を重ねるごとに最適化され、現在は特に問題はないとのことです。
・部門Cからは、参加者データの分析がほとんどできておらず、アンケートは無記名で満足度や学びを記入してもらい、それを登壇者にフィードバックとして送っています。データ集計の自動化アプリがあれば利用したいとの意見がありました。これらのヒアリング結果をもとに、事前に立てた仮説に照らし合わせたところ、仮説1に2票、仮説2には0票、そして「特に困っていない」という意見に1票という結果になりました。
今回のソリューションの流れを簡潔に説明します。まず、応募者を募集すると、応募者リストが作成され、それを取得します。ウェブセミナーを開催すると参加者リストが生成され、これも取得されます。その後、アンケートを実施し、アンケート結果のリストが作成され、それを取得し、集計・分析されます。これらのデータ処理が流れの中に組み込まれています。
提供されたソリューションはウェブアプリであり、2つに分かれています。これは、途中でデータを担当者や分析者に確認してもらう必要があるため、意図的に分けられています。このように、データ確認を促すための工夫が施されています。
今回のデモ用に、データとアプリを準備しましたので、そちらをお見せします。
このアプリには2つの機能があります。1つは応募者リストの管理、もう1つは参加者リストの管理です。今回、200名分の応募者リストを作成しました。このリストには、氏名、メールアドレス、従業員番号、会社名、ロケーション、内線・外線番号、コメントなどが含まれています。このリストは、弊社の募集受付システムから出力されたものです。
参加者レポートも用意しており、こちらは1年前のデータですが、構成はチームの設定に基づいています。レポートは、要約、参加者、会議中のアクティビティという3つのパートに分かれており、少し複雑な内容になっています。アンケート結果も準備しており、アンケート回答リストを作成しました。
アプリ1に応募者リストと参加者リストをアップロードします。処理が終わると、前処理が行われたデータを取り出すことができ、例えば応募者リストの処理結果や集計結果が表示されます。今回は応募者200名で、グループ会社ごとの応募者数や、部門ごとの応募者内訳も表示されます。
同様に、参加者レポートも処理され、欠損情報があれば表示されます。例えば応募者リストにはないが、参加者リストにある人の情報が欠損として出てくる場合などです。
参加者数は合計161名でした。参加者をグループ会社別に分類した結果、特定の部署のデータに欠損が見られました。申し込んでいないのに当日参加していた方もおり、データの修正や不要なデータの削除が必要です。この作業は複数のアプリで処理され、参加者リストやアンケート結果もアップロードされます。
アンケートの回答リストには当初、所属部署の情報が含まれていませんでしたが、参加者リストから部署情報を反映させ、回答者リストを作成しました。回答していない方には個別にメールを送信し、回答を促すためにリストをフィルターで管理しています。
最終的に、アンケート回答者数は90名で、グループ会社別や部署別の内訳が確認できる状態となっています。この情報を基に、適切なフォローアップを行っていく予定です。
話を戻しますが、ユーザーの反応について部門Aからのコメントを紹介します。彼らは、アプリを活用すればデータの集計だけでなく、質問項目の設計など、難しい部分にも対応できるのではないかという意見を持っています。影響の小さい部分から試したいとのことです。
部門Bからも「面白い取り組みだ」とのフィードバックがあり、さらに部門Cからも「このアプリは従来の手間を省けるものだ」と評価され、多くの参加者が来てくれています。
データ活用における見えない課題についての学びを共有させていただきます。具体的な事例共有を通じて、共感や安心感が得られました。左側の図では事例共有前の状況が、右側では事例共有後の状況が示されています。
事例共有前は、データ活用に関して上司やステークホルダーからプレッシャーを感じていました。データをどう活用すべきか具体的にわからないという戸惑いもありました。
事例共有を通じて、具体的なスケジュールやウェブセミナー開催の目的が明確になり、情報収集とデータ処理のプロセスが共有されました。これにより、参加者がデータ活用に対して共感を持ち、AIがデータ活用を支援することで、取り組む意欲が高まりました。
次にプロトタイプがもたらす効果についてお話しします。
今回、プロトタイプを提供していますが、提供前に「データ活用はどうですか?」と聞いても「忙しくてあまり活用できていません」といった返答が返ってきました。しかし、プロトタイプを提供した後に同じ質問をすると、「実はアンケート設計に関する経験が…」と、より具体的な課題が見えてきました。真の問題を把握することができたのです。
プロトタイプ提供前の担当者は、データ確認や整形、保管、集計、アンケートの設計や作成といった多くのタスクに追われていました。これらの作業はどれも負担が大きいものでした。そこで、プロトタイプを適用し、これまで目が向けられていなかったアンケート設計に焦点を当てることで、担当者の経験を引き出すことができたのです。
最後に、ソリューション提供とDXについてです。今回協力していただいた方々は、これまでデータ活用をあまり行っていませんでしたが、日々忙しい業務に追われていました。DXの時代だからこそデータ活用が重要だと提案しても、インセンティブやモチベーションがなければ、なかなか進まないのです。
協力いただいた期間中は前向きに取り組んでいただけましたが、プロジェクトが終わると元の業務に戻ってしまうのではないかという不安を感じました。便利なツールや事例の共有だけでは一時的な対策に過ぎないと感じました。
データ活用を業務に根付かせるためには、上司を巻き込んだ評価や業務フローの変革が必要です。DX活動において、トップの関与がいかに重要かを改めて実感しました。
次に、日常業務のDX化についてお話しします。
まず、世界デジタル競争ランキング2023年版に注目してみます。日本は32位で、1位が米国、2位がオランダ、3位がシンガポール、4位がデンマーク、5位がスイスという結果になっています。この差はかなり大きいです。
日本が評価を落とした要因として、以下の点が挙げられています。
・上級管理職の国際経験の不足
・デジタルスキルの習得が遅れている
・企業が機会や脅威に対する対応の速さに欠ける
・企業の俊敏性が低い
・ビッグデータや分析の活用が進んでいない
これらが主な問題点です。
ここで少し考えたいのですが、単に戦略的なDX推進をトップダウンで行うだけで、日本が国際的なデジタル競争力を高められるのでしょうか? 他国も同様の取り組みをしていることを考えると、同じ手法では差が縮まらないのではないかと感じます。
私が考えるDXの本質は、経営層だけでなく、企業全体、つまり全ての業務にデータを活用した意思決定を浸透させることにあると思います。これにより、企業文化全体でDXを実現することが重要だと感じています。
今回の取り組みの中で観察されたDXの適用に関する課題について共有したいと思います。
この取り組みや関係部署と多くのコミュニケーションを通じて、デジタルやデータの活用が身近なものでありながら、意識されないままになっているという課題が浮き彫りになりました。
例えば、新入社員が調達部署に配属されたときに、ファックスの使い方を教えられてショックを受けたという話がありました。日常的にファックスを使い続けているベテラン社員にとっては、何十年も続けてきた業務であり、無意識にこなしているもので不満もないのです。経営者も、特に大きな問題がなければ新たな投資をすることはありません。背景には、取引先との関係でファックスをやめることが難しいという事情もあるでしょう。
一方で、デジタルネイティブ世代の新入社員にとっては、令和の時代に昭和のアナログなオペレーションが残っていることに愕然とすることでしょう。ファックスのオペレーションが悪いわけではありませんが、国際的なデジタル競争力という視点で見ると、先進国では受発注システムが導入され、そのプロセス自体が自動化されている可能性もあります。このような差が積み重なることで、競争力の格差が生まれるのです。
中堅以上の社員にとっては、将来の利益よりも目先の問題が優先されがちです。もしファックスのオペレーションを受発注システムに置き換えた場合、これまでファックスで業務を行っていた担当者は、新しいオペレーションを覚えたり、システムの仕組みを学ぶ必要があります。これが負担となり、抵抗感を感じるのです。たとえ将来的に業務負担が軽減され、生産性が向上して給料が上がる可能性があるとしても、今すぐの負担を理由に、前向きに捉えられないかもしれません。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める際に、重要なのは、これまで放置されてきた課題に光を当て、解決の道筋をつけることだと考えています。私の考えでは、課題解決には個人と組織の両方の努力が必要です。課題を組織の優先事項として認識してもらうためには、まず個人の努力と組織のサポートが欠かせません。個人としては、日常の問題意識を持ち、解決に向けた勇気が必要です。また、組織としては、課題を提案しやすい環境を作り、信頼関係を構築することが求められます。
・課題の提案
例えば、Aさんが社内セミナー後のアンケート実施を提案したとします。上司はその提案を受け、ベテランのBさんにアンケート実施の調査を指示します。この流れがスムーズに進むためには、Aさんが安心して提案できる環境があり、上司や同僚がその提案を受け入れやすい雰囲気が整っていることが重要です。
・課題解決の道筋をつける
課題解決を進めるためには、情報収集や関係者の巻き込みなど、個人と組織双方の努力が必要です。個人は、情報収集能力や企画力を高め、組織は成功事例の共有や相談窓口の設置などのサポートを提供すべきです。
・課題解決の例
Bさんはアンケート実施に関する調査を進め、社内の相談窓口で、紙ベースとデジタルのアンケート手法の違いについてアドバイスをもらいます。その後、Bさんはウェブシステムを使ったアンケート実施方法を上司に提案し、コストを抑えた形で実施できることを報告します。上司もその案を受け入れ、Aさんが実施準備を進めることになります。
・課題解決の遂行
最後に、課題解決を遂行するには、個人のやる気や責任感、そして必要なスキルの習得が不可欠です。組織としても、外部からのサポートや社内ネットワークを活用して、必要なリソースや知識を提供することが求められます。
・実施例
Aさんがアンケートの実施方法を探し、DX支援チャットボットに相談したとします。AIは目的に応じたアンケート設計やデータ分析方法を教えてくれます。それを基にAさんはスキルアップが必要だと上司に報告し、上司は外部講座の利用を勧めるといった流れでサポートが行われます。
社内のデータ活用に関する課題について、他人事のように軽視されがちな点があると述べましたが、私も似たような経験があります。PDFなどの電子資料を受け取った場合、しっかりと内容を読み込むためには、プリントアウトして紙に書き込みながら読まないと、深く理解できないことが多いのです。
通勤中に電車で、女子高生二人が乗ってきて、iPadとApple Pencilを使いながら、iPad内の文章に巧みに書き込みつつ何かの打ち合わせをしている様子を目にしました。その光景を見て、もし彼女たちが将来社会人になって「環境への配慮のためにペーパーレス化を推進しましょう」と言われた時のギャップ感を想像してみました。
私たちが長年培ってきたアナログなオペレーションや習慣を手放すのは、決して簡単なことではありません。だからこそ、世代間の摩擦を生まないようにするための配慮や、適切な環境づくり、雰囲気づくりが非常に重要だと感じています。
経済産業省が示すDXの定義について話を戻したいと思います。ここで強調したいポイントが2つあります。
1つ目は、デジタルツールの導入がDXそのものではないということです。データやデジタル技術はあくまで「変革のための手段」であるという点が重要です。2つ目は、デジタルを使った製品やサービスを提供するだけでなく、データやデジタル技術を活用したプロセス改善や、それを推進しやすい組織づくりへの取り組みが必要だということも挙げられます。
この点について、経済産業省の資料にも明確に記載されています。私が提示した考え方が唯一の解答だとは思いませんが、業務におけるDXの適用という視点の重要性については、経済産業省も同意していると感じます。
最後に、AIが予測するプロジェクトの未来についてお話しします。
工業社会においてはウォーターフォール型のプロジェクトマネジメントが登場しましたが、情報社会においてはアジャイル型のプロジェクトマネジメントが誕生しました。では、Society 5.0と呼ばれる超スマート社会において、プロジェクトマネジメントはどのように進化するのでしょうか? これは今後注目すべき課題です。
プロジェクトの未来について、ChatGPTに予測してもらった結果をご紹介します。
・まず一つ目は「データドリブンな意思決定」についてです。
デジタル技術の進展により、プロジェクトマネジメントにはますますデータに基づくアプローチが求められています。リアルタイムでデータを収集・分析し、進捗状況やリスクを可視化することで、迅速かつ正確な意思決定が可能になります。先日のPMシンポジウムでも、「デジタルツイン」や「モデルベースの進捗把握」の重要性が話題に上がっていましたが、データを活用した
意思決定の重要性がさらに高まると予想されます。
・二つ目は「クラウドベースのプロジェクト管理ツール」の活用です。
クラウドサービスの普及により、プロジェクト管理ツールもクラウドベースのものが主流となります。これにより、どこからでもアクセスでき、常に最新の情報を共有できるようになります。さらに、クラウドベースのツールはスケーラビリティが高く、プロジェクトの規模に応じて柔軟に対応可能です。
・三つ目は「AIと自動化の活用」です。
AIと自動化技術の進展により、プロジェクトマネジメントの多くのプロセスが自動化されます。タスクの自動割り当てや進捗の自動追跡、リスクの予測と対応など、AIがプロジェクトマネージャーをサポートすることで、戦略的な意思決定に集中できるようになります。
・四つ目は「オープンアーキテクチャとシステム連携」です。
オープンアーキテクチャの導入により、異なるシステムやサービス間での連携が容易になります。これにより、プロジェクトチームは多様なツールやプラットフォームを統合し、効率的にプロジェクトを進めることが可能です。
・最後に「複雑化するステークホルダーの関与」が挙げられます。
多くの他社サービスを活用してバリューチェーンに参画することで、プロジェクトのステークホルダーはますます複雑化していきます。このため、プロジェクトマネージャーには高度なコミュニケーション能力と利害調整スキルが求められます。
これらの点を総合すると、プロジェクトマネージャーの業務もDXに対応していく必要があると言えるでしょう。先ほど触れたように、業務をDXに適用することが非常に重要です。
個々のPMの努力や、企業からの支援に加え、日本プロジェクトマネジメント協会が主催するPMシンポジウムやP2Mクラブでの事例共有、ネットワーキングの機会も、ますます重要になると思います。
以上が私の話題提供の内容です。ご清聴ありがとうございました
<質疑>
・まさに草の根の事例をもとにお話しいただき、考えさせられる部分が多くありました。皆さんからご質問やご意見があれば、遠慮なくお聞かせいただきたいと思います。
・DXとAIは、現在急速に変化しており、日々たくさんの情報が入ってきます。しかし、現場がそれにうまく対応できているかどうか、特に日本の企業においては疑問が持たれることが多いようです。皆さんの組織でどのような取り組みをされているか、ご意見をいただければ大変参考になります。
・現実的な試行錯誤を経て、ここが重要だと思う部分や、人間が思ったように反応してくれない点に悩まされたことが感じられました。私はもともとアナログ世代で、デジタルとアナログの境界で両方を使わざるを得なかった世代です。今ではその橋渡しをする役割を担うようになり、共感できる部分が多くありました。
・デジタル化そのものが目的ではなく、何をどうしたいのかがDXの核心だと理解しました。もっと楽をしたいのか、ワクワクしたいのか、分からないことを理解したいのか、目的によって取り組み方は変わると思います。
・人間にとって最初のデジタル化はおそらく「お金」だと考えます。お金は数値として明確であり、それを多いか少ないかで判断するようになりました。しかし、すべてをお金に置き換えたとき、細かなニュアンスや実物の持つ膨大なデータがこぼれ落ちてしまいます。デジタルでは、こうしたデータのうち、目に見える部分だけを扱い、コンピューターに任せることが多くなりました。それは人間が処理しきれないためであり、得意な部分を機械に任せようという発想です。
・人間は何をするのかというと、数値化できていない部分や、違和感のある部分を感じ取り、仮説を立てたり、推測したりする役割を担っています。たとえば、デジタルランキングでは日本の順位が低くても、その数字がどう得られたものなのか、詳しく見ないと本当のことは分かりません。数字だけを見て「負けている」と焦ってしまうことが多いのです。
・日本はデジタルに弱い面もありますが、特殊な文化や才能も持っています。弱点を補うべきか、強みを伸ばすべきかを考えることが大切です。「日本はダメだ」と言われても、インセンティブがなければ人は元気を出せないでしょう。自分たちの強みを信じて取り組む方が元気が出るのです。
・私は紙派ですが、デジタルの便利さも認識しています。単純な作業はデジタルに任せますが、たくさんの情報を斜め読みして、直感的に何かを引き出すのはアナログ的な作業が得意です。デジタルには登録されたキーワードしか出てきませんが、人間は関連する記憶を基に検索し、新しいものを見つけ出すことができます。
・アナログも、うまく使えば捨てたものではないと感じています。プロトタイプの検証結果では、アンケートだけではなく、意見交換の重要性が感じられました。アンケートでは最初に設定された質問にしか答えが返ってきませんが、人のもやもやした部分や引っかかりを引き出すには、意見交換が必要です。
・私は商品企画や市場調査を多く経験してきましたが、定量的な分析だけではなく、定性的な分析も必要だと感じています。その限界を感じていらっしゃるかもしれませんが、今後のAIの発展についても、何か違和感や感覚的なものがあればお聞かせください。
・AIが意思決定をサポートするという話ですが、私自身もF1の開発に携わって、データに基づいて進めた結果、何度も失敗しました。データドリブンだと、各チームが自分たちのデータを持っているだけで、他者のデータにはアクセスできません。他者のデータを使うことも難しいです。最終的には何が起こっているのかを想像するしかありません。
・同じデータを見ても、違いを見つけるには試行錯誤が必要です。そして、それを基にして自分たちでもデータを集め、検証してみようという流れになります。最終的には人間が判断し、AIはその過程でヒントを提供してくれるとありがたいですね。それにより、人間も「もしかしたらこうかもしれない」と新たな視点を持つようになります。
・人間自体をもっと研究する必要があるのかもしれません。違和感というものはデータ化しなくても認知できる力があります。人間は、データには表れない何かを感じ取ることができるのです。データにちょっとした違いがあることがわかると、その違いを探し出す理由をコンピューターに教えることができます。
・経験豊富なエースドライバーが「何ヶ月前のテストのこのコーナーと同じ感覚だ」と言うと、その瞬間に該当データを見たほうが早いです。そんな感じで、AIがデータを深掘りする一方で、人間の感覚も重要なのです。
・現場では、例えば溶接のスペシャリストの技術が消えてしまう前に数値化し、未来に残す動きが進んでいるかもしれません。そうした技術の保存と人間の感覚の重要性をどうバランスさせるか、これからの課題だと思います。
・ある伝統的な民族舞踊の継承者がいないため、その動きを徹底的に動画で記録し、後から分析可能にする試みもあります。例えば、重心がどこにかかっているのかなど、後で分かることが多いかもしれません。
・データを残すことは重要です。最終的に人間は育成に時間がかかりますし、感覚や技術を他者に伝えるのは難しいものです。データ化できる部分をできるだけ広げておくと、技術の進化によって後から分析ができる可能性も増えます。
・未来を見据えるには、データをしっかり保存しておくことが重要です。世の中は急速に変化しているので、その変化に対応できるよう準備する必要があります。それが、未来を先取りするための鍵かもしれません。
・分かっているところは超高速で進めてもらって、余裕を持ちながら、仮説を立てるためのヒントになるようなものが出てくるといいですね。
・一度、自分たちでデータを取って考えるというのは、大事かもしれません。最終的には人間が決定しますが、人間が見落としやすいポイントについてAIがヒントを提供してくれると非常にありがたいです。そうなると、人間も賢くなり、「こんなことも考えられるのでは」と思い始めるかもしれません。人間自体をしっかり研究する必要もあるかもしれません。
・選択肢を広げておくことが大切です。技術が進化することで新たな情報が得られる可能性も高まります。現在の世の中は変化が速いので、そうした選択肢を持っておかないと、損をすることもあるかもしれません。
・今のデジタル環境では、スマホの中に大量の情報が蓄積されていきますが、本当にすべてを見返すことができるのかという疑問もあります。しかし、ピックアップの仕方を教えれば、必要な情報を探し出してくれるようになっています。逆に、データを残しておくことは人間の役割で、しっかりと決めておかないとデータは失われてしまいます。
・デジタル情報の進化は部分的に人間を超える可能性がありますが、人間が意識しなければ、その進化の恩恵を受けることはできないでしょう。目的や情報の意義についても考え続けることが重要です。情報は時代によって変わるものですし、データも常に意味付けが変わるので、後で価値が見出されることもあります。そのため、現時点での価値観だけで情報を判断するのは危険です。
・無駄だと言われても、しつこく残しておくべきだと思います。それは、後の世代の可能性を信じているからです。AIは進化しますし、その進化を期待しなければなりません。目先のことだけにとらわれてしまうと、もったいない結果になってしまう気がします。
・AIが外部に消費する電力があまりにも大きく、そのことが問題視されています。実際、AIが力技で成り立っている状況もあります。果たしてそれが最良の方法なのか、人間の直感の方がエコだと考える意見も出ています。単純に1か0かで決めつけると、何かが崩れてしまうような気がします。
・AIもいつか落ち着くとは思いますが、現在はまだ始まったばかりで、過剰な状態にあります。AIの基準で評価しているため、皆がどんどん過剰に反応しているのではないでしょうか。色々と勉強になりました。
・90年代に、3つのコーポレートプロジェクトに関わりました。設計改革プロジェクト、人材と組織対策委員会、そしてSOCプロジェクトです。当時はインターネットやCAD/CAM/CAEといった新しい技術が登場し、伝統的なアナログ商品作りが通用しなくなり、デジタル化が待ったなしでした。
・これらのプロジェクトは10年近くかけて進められましたが、狙いは人材と組織の意識・風土改革など、チェンジマネジメントにありました。現在も、DXやAIなど第二次デジタル化といった新たな課題に直面していますが、人材や組織の意識や風土を改革しなければ、技術は定着せず、世の中の動きに遅れを取ることになると思います。
・大橋さんが進めているモデルは非常に貴重であり、これを活かしながら周囲を巻き込み、小さな勉強会やプロトタイプ作りなどを通じて意識改革を進めていくことが大切です。私自身もそのような経験をしてきました。
・最終的に、世の中はハードウェアからソフトウェアへの移行が進んで、その流れの中で人員整理なども起こりました。今回のDX/AI化の流れも、それに匹敵する非常に大きな波だと捉えています。
・ある経営者が日本の未来について語っていました。彼の意見によると、日本は滅びる可能性があるとのことです。理由は、日本人が少数精鋭での業務を行うことができず、集団での人数が多ければ偉いという風潮が根付いているからということです。このようなやり方では、海外の競争相手には勝てないのではないかと話していました。
・AIがますます便利になると、人間が必要なくなる時代が来るかもしれません。企業の中で人が余ってしまうことも考えられます。その場合、企業は社内の余剰人員のための新規事業を次々と生み出す必要があるでしょう。そういった兆しを感じています。
・今の大橋さんの動きも、小さくまとまるのではなく、どんどん新しい方向へ進むべきです。社内のウェブセミナーシステムを活用して、社員全員の意見を引き出し、AIがどのように影響するのかを日常的に議論する環境を作ることが重要です。「昼飯を何食べる?」という話題と同じように、気軽にDX/AIについて語り合うような風土から、新しいアイデアが生まれるのではないでしょうか。
・PMシンポでの話ですが、米国のパートナーから「あなたたちは10年後には恐竜になってしまいますよ」と言われたというエピソードがありました。その言葉に危機感を覚え、DXを進めることにしたという話です。
・私の会社も同じような危機感を持っていると思います。多くの企業は本気で危機感を感じていると思いますが、その認識が社内の末端、つまり担当者レベルまでどこまで浸透しているかというと、まだ十分ではないのではないかと思います。
・私自身、こうした問題に興味を持ち、調べていく中で、議論を主導する役割を果たせたらいいなと考えています。微力ではありますが、社内のDXを進める活動に貢献できればと思っています。
・気になっているのは、身近なところから始めるということです。事例として紹介された内容についてですが、DXの「D」はデジタルを意味します。データ処理をデジタル技術を用いて行うことが重要です。これは非常に理解しやすく、改革の一つとなります。
・しかしXの部分、つまりトランスフォーメーションについても考えなければなりません。そのデータを効率的に処理した後、会社としての価値にどう繋がるのかが気になります。まずデータを処理し、それに基づいて改善案を考えるのは重要ですが、Xの部分がどのように大事なのか、そしてその先に何があるのかを考える必要があります。
・「ソサエティ5.0」という概念がありますが、これは今の情報化社会から超スマート社会に移行するためのスタート地点にいるということです。未来の姿については想像の域を出ませんが、今の流れを見ると、デジタルによって肩書きや経験に頼るのではなく、データに基づいた判断ができるようになることが求められています。
・これまでは一部の専門家や経営者が経験に基づいて判断していましたが、今後は多くの人が似たような判断ができるようになると考えています。DXの未来として、多くの人がこのように語っています。
・このように、ウェブ研修などの事例を通じてデータを効率的に分析し、それに基づいて行動することが重要です。関わっている人たちがデータを基に自ら判断し、研修の仕組みや価値を高めていくということが求められています。それはトップダウンではなく、各自がデータを理解し、意見を出し合うことで実現されるものです。
・最終的には、各担当者が自ら判断できるようにデータを効率的に提供し、見える化することがDXの目的であると考えます。このような説明に私は納得しています。
・各社が様々な形でDXに取り組んでいます。そうした中で、ビジネスモデルの変革が求められているのです。トランスフォーメーションというのはビジネスモデルの変化を伴います。それを実現するために、各社がDXに取り組んでいると思います。
・今後がどうなるのかについては、私自身もはっきりとしたイメージを持っていませんが、各社が色々な手法で進めていることは確かです。例えば、プラントの設計や建設において、デジタルツイン技術が活用されるようになっています。ただし、これが直接ビジネスモデルを変えるわけではないかもしれず、デジタル化が進むだけなのかもしれません。
・プラント建設においてはDCS(分散制御システム)の導入を進めていると聞いています。メーカーがどのように変化していくのか、簡単にお話しいただけると嬉しいです。
・率直に申し上げると、プラント建設におけるDXがもたらす影響について、あまり期待が持てません。むしろ、グリーントランスフォーメーション(GX)やサステナビリティトランスフォーメーション(SX)の流れにプラント業界が大きく関わっていくのではないかと感じています。
・プラント業界は多くの人々の作業によって成り立っており、その複雑さもあります。今後、人材の確保や、必要な技術を持った人材を集めることが大きな課題になるかもしれません。この点に関しては、DXが商業化を進めたり、高度な技術の再現に貢献することが期待されます。
・エンジニアリング会社のビジネスモデルがどのように変わるかは、今後の市場のトレンドによるでしょう。エネルギー不足の時代に、ビジネスモデルを変えるかどうかは経営者の判断に依存する部分もありますが、ビジネストレンドが変わりそうな中で、急いで変える必要があるかもしれません。
・基本設計と呼ばれるフロントエンジニアリングデザインについても考えたいと思います。通常、このプロセスは半年から1年かかりますが、私はこれが1日でできるのではないかと感じています。このように時間が短縮されることで、ビジネスモデルにも影響が出るのではないでしょうか。
・作業と合意形成は異なります。作業は短縮できるかもしれませんが、ステークホルダーとの合意形成やその他の要素も重要です。私自身、フィールドでの作業に直接関わった経験が少ないため、断言はできませんが、コンピューターの力だけで、これまでかかっていた時間が劇的に短縮されることは難しいのではないかと感じています。
・将来的には、3Dプリンターを使ってポンプを1日で製作できる可能性があるのかという点についても考えています。もちろん、デジタル化が進むことで、大幅な納期短縮は可能かもしれませんが、製造後の検査や確認は人が行う必要があります。技術の進化で効率が上がる部分は多く出てくると思いますが、すべての工程がデジタルに置き換わることはないと考えています。
・設計のプロセスについては、データを蓄積することで図面が自動で生成されるような未来も想像できますが、メーカーがどのようにこの技術を活用しているのかについては、私もまだよく把握できていません。
・ステークホルダーを巻き込む能力をどうやって高めていくかが重要だと感じています。デジタル化の進展によって、ある程度の形を見せることが求められていますが、それが逆に負担になってしまうこともあります。皆で一緒に取り組んでいこうという姿勢を持つことが最近のトレンドとして少し薄れてきているように思います。
・たとえば、ソフトシステムフローやエスノグラフィーのような手法をビジネスにどう活かしているのか、最近非常に興味を持っています。ただ、こうした活動が祭りや宗教的な集まりのようになってしまうのは避けたいところです。私としては、強い関係性を築くことが大切ですが、「一緒にやろう」といった共同作業の意識がどう育まれているのか、皆さんはどのように取り組んでいるのか気になります。
・私自身もセミナーを行う仕事をしているのですが、声の大きい人に引きずられることや、データがあるところに流されてしまうことが多いと感じます。評価指標が増えれば増えるほど、これまで見えていなかったものを拾いやすくなるのではないかと思っています。単に意見があるかないかにとどまらず、そこから得られる気づきをうまく捉えられると面白い展開があると思うのですが、実際には難しさを感じています。
・デジタルリテラシーのレベルが異なる人々、例えば専門家と現場でツールを使う人々が同じ場所でコミュニケーションを取ろうとすると、うまくいかないことがあります。そのため、コミュニケーションの間に翻訳者的な役割を果たす人が必要だと思います。こうした背景から、相談窓口の重要性も感じています。
・実際には手探りで進めることが多いです。試行錯誤しながら学び、改善していくしかないと個人的には考えています。理想的なビジョンを持って進めるよりも、まず目的に向かって試してみて、その結果を見て改善していくというアプローチが、DXを進める上でも重要だと感じています。
・ガイドブック4版が発行されたと思いますが、それがどのように現実と照らし合わせていくかが重要です。常に、現実を考慮しながら進めていかなければならないと感じています。ユーザーにとって使いやすいものでなければ、正直言って意味がありません。
・エキスパートと呼ばれる人たちがどれほどの専門性を持っているのかも疑問です。特に、マネジメントガイドラインのようなものであれば、その時代は終わったと思います。たとえば、PMBOKの第7版で述べられている原理や原則に対して、それがなぜ必要なのかを考えるべきです。
・現実の実践や、たとえばF1のような特定の世界と照らし合わせたときに、どこまで当てはまるのかを常に検証することが大切です。その過程には無駄があるかもしれませんが、それこそが価値であり、単なる理論書のようなものであってはいけません。こうしたものを継続的にメンテナンスしていくことが重要だと最近思った次第です。
・非常に勉強になりました。私も同じようなことを感じています。事例を共有する機会はとても重要だと思います。最近、社内の情報収集が難しく、自力での理解が必要とされる場面が増えています。このような積み重ねが意外と重要なのではないかと感じています。
・ある会社を見学させていただいたのですが、写真撮影が禁止だったり、LINEを動かさないように言われたり、厳しさを実感しました。エキスパートでないと、なぜそのようなことをしているのか理解するのが難しいと痛感しています。ただ、両面あると思います。PM(プロジェクトマネージャー)には、ぜひ現場の見学会を体験してもらいたいです。ホワイトカラーの見学は難しいかもしれませんが、話だけでなく、現場がどのように機能しているのかを知ることは大きな手がかりになると思います。
・私たちの会社も「DX」をスローガンとして掲げ、さまざまな取り組みを行っています。ただ、最近気づいたことがあります。それは、私たちのDXの進め方が、あるシステム会社の提唱する方法に依存しているのではないかということです。例えば、従来の紙で行っていた作業をデジタル技術を使ってシステム化したり、既存のシステム同士を連携させてデータの抽出をしやすくしたりすることです。
・システムを導入することで業務効率が向上し、新たな価値を生むと聞くと、確かにワクワクします。しかし、後になって気づいたのは、そのDXの進め方が他社のシステムに沿った形になっているということです。私たち自身のビジョンや目指す姿からではなく、あくまで借り物としてのトランスフォーメーションを追いかけているのではないかと感じています。
・その結果、システムに合わせて仕事を変えなければならず、最初は良いと思ったシステムの導入が、いつの間にか自分たちの望む姿から離れてしまっているのではないかという疑問が生まれました。これを進めていく中で、本当に望む変革が実現できているのか、再考する必要があると思います。
・DXを推進するためには、単にシステムを導入するだけでなく、みんなで意見を出し合い、真の課題を解決するための取り組みが重要です。経営層が本当の課題を特定し、組織全体でその解決に向かっていく必要があります。そのためには、業務フローを見直したり、みんなで議論を重ねたりすることが不可欠です。
・今日の話を通じて、多くの学びがありました。ぜひ社内での議論を続け、様々なアイデアを集約していくことが、次のステップにつながるのではないかと思います。また、他の方々からの知見を得ることも重要です。もし機会があれば、外部の専門家を招いての議論もぜひ行っていきたいと考えています。
・皆さんからさまざまなご提案やご意見をいただき、私自身も非常に勉強になりました。「やらされ感」や「借り物感」についても考えさせられました。現在のソフトウェアの世界では、「Fit to Gap」よりも「Fit to Standard」が主流になっているようです。私たちが抱える問題意識や理想と現実のギャップに合わせてソフトウェアを作るよりも、ソフトウェアが進化するスピードに合わせて、標準化されたソリューションに業務を合わせた方が、結果的に早く効果を上げられるという考え方です。ソフトウェアを提供する側にとっては、こうした常識がとても都合が良いのかもしれません。しかし、このような方法論が本当に良いのか疑問に思いました。
・私は企画部門にいた経験があるので、プランニングは人間によって行われるべきだと実感しています。何をするのか、今までと何が違うのかを90%は人に説明し、納得させることがプランニングの主な仕事です。
・この「説得」という行為は、単に上から指示を出したり、こちらがお得ですよと伝えるだけでは成り立ちません。相手が「なるほど、そういうことか」と理解し、「よし、じゃあやってみよう」と思ってもらうことが大切です。そのためには、AIやデジタルだけではなく、人間らしいアプローチが必要です。相手がどの部分に気づいてくれるかを考慮しながら、プランニングやプロジェクトマネジメントを行う必要があると感じました。
・本日はありがとうございました。このように事例を共有できる場があることは、本当に貴重です。これまで色々と学ばせていただき、少しでも貢献できればと思い、事例紹介をさせていただきました。事例発表の準備段階も非常に勉強になり、皆さんとの対話も良い経験となりました。今後もこのように共有できる機会があれば、ぜひ貢献させていただきたいと思っています。引き続き、よろしくお願いいたします。今日はどうもありがとうございました。
・「DX&AI時代のPM」については、皆さんの関心が高いようですので、今後もテーマとして取り上げます。引き続き議論を深めていければと期待しています。ぜひご参加ください。 以上
<注>
資料は改訂される可能性がありますのでご了承ください。