テーマ: 「2025年の抱負」

     〜PMAJが目指してきたもの、そしてこれから目指すもの〜

            ・・・ 加藤 亨 (PMAJ理事長)

 

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「第65回P2Mクラブ-01/22」の<発表資料> by加藤理事長
2025年の抱負ver2「PMAJが目指してきたもの、そしてこれから目指すもの」
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<理事長講話>                                           文責:岩下

「2025年の抱負」

〜PMAJが目指してきたもの、そしてこれから目指すもの〜

・・・ 加藤 亨 (PMAJ理事長)

 

P2Mクラブで話題提供を依頼されました。当初はガイドブック第4班の話を考えましたが、最近は同じ話が続いていますので、「2025年の抱負」についてお話することにしました。PMAJに来てから6年が経ちます。この間、パンデミックの影響で約3年間は活動がほぼ停止状態でした。オンラインでの活動は続けていたものの、思うように進められないもどかしい状況が続きました。今年も早々にトランプ大統領の発言や行動、国際紛争の影響などで、環境の変化が激しく、先行きが見通しにくい状況が続いています。こうした状況で、PMAJとしてどのように対応していくべきかを整理する必要があると感じ、今回、このようなテーマでお話しすることにしました。

 

私は、エンジニアリング企業である千代田化工建設に入社しました。最初はIT部門に所属していましたが、次第に現場のネットワーク構築やさまざまなプロジェクトの支援に携わるようになりました。特に1990年代はネットワーク技術が大きく進化した時期であり、現場支援に力を注ぐ中で、プロジェクトマネジメントの経験を積むことができました。

2000年には、情報子会社であるITエンジニアリングへ移籍し、プロジェクトマネジメントソフトウェア「プリマベーラ」を日本市場に展開するビジネスを担当する機会を得ました。その際、アメリカで出版された『エンタープライズプロジェクトマネジメント』を読み、日本企業が目標を達成するための手段として、エンタープライズプロジェクトマネジメントの手法を活用することを提案しました。このビジネスを推進するため、メンバーとともに「エンタープライズプロジェクトマネジメント本部」を立ち上げました。事業としては大きく成長するには至りませんでしたが、多くの企業への提案活動を通じて、P2Mのプログラムマネジメントの考え方に近いアプローチを実践していたことに気づきました。この時の実践経験を、PMAJでのこの6年間、試行錯誤を重ねながら実践してきました。この取り組みを、今回皆さんと共有することで、新たな展開が生まれるかもしれません。本日は、その点も含めてお話しさせていただきます。

 

最初に、PMAJがこれまで目指してきたものについて、私が経験してきた範囲でお話しします。私は2000年頃からPM研究研修部会のメンバーとして活動し、PMBOKの普及に取り組んできました。当時はPM研修第2部会を中心に活動しており、PMAJ全体の動きについては詳しく把握していませんでした。そのため、私がPMAJの目指してきたものについて語る資格があるかは疑問ですが、たまたま、エンジニアリング振興協会(現在のエンジニアリング協会)の情報システム部会にも深く関わっていた関係で、P2Mの起源であるPM導入開発委員会が作成した報告書も所持しています。また、P2Mの講義を担当する際には、P2M標準ガイドブックの初版から内容を見直し、知見を深めてきました。こうした経験をもとに、2005年にPMAJが結成された後、どのような目標を掲げてきたのかを整理し、本日のテーマとしました。

 

PMAJの歴史を振り返ると、JPMF(日本プロジェクトマネジメントフォーラム)が1998年に設立されました。この背景には、1996年にPMBOK初版の日本語訳が発行されたことが影響しています。これをきっかけに、エンジニアリング協会に集っていたPMの実務家たちが学びの場を求め、JPMFを立ち上げました。JPMFでは、試験対策講座やPMシンポジウムなど、さまざまな自主的な活動が行われました。一方、「エンジニアリング振興協会」では、PM導入開発委員会が2年間にわたり活動し、その成果として2001年4月頃に報告書を発表しました。この報告書が、後にP2M(プロジェクト&プログラムマネジメント)のオリジナル原本となり、同年11月には「P2M標準ガイドブック」として発行されました。

 

2002年4月にはPMCC(プロジェクトマネジメント資格センター)が設立され、P2Mの試験や講習会が継続的に実施されるようになりました。この活動は、資格取得のための講習や資格制度の運営という形で発展し、標準ガイドブックの維持・改訂にもつながりました。その後、PMCCは2005年にJPMFと合併し、PMAJ(プロジェクトマネジメント協会)に名称を変更し、2007年に第2版、2014年に第3版が発行されました。

 

P2M標準ガイドブックの冒頭に明記されていますが、『日本企業は、従来の「ものづくり中心」の発想から、「仕組みづくりによる再生」へと転換する必要』があり、これを推進するための人材育成も含めて実践するためにP2Mガイドブックが開発されました。「仕組みづくり」とは、経営者が率先して「企業価値とは何か」「価値とは何か」を問い直し、それを基に新しいビジネスモデルを構築することを指します。これは現在のDX(デジタルトランスフォーメーション)とも通じる概念であり、実は2001年の時点でP2Mの中に明確に示されていました。

 

P2Mの英語名は "Project & Program Management for Enterprise Innovation" であり、企業のイノベーションを促進するためのガイドブックであることをも目指しています。その初版の序文やタイトルからも、その意図が明確に読み取れます。P2Mは、プロジェクトマネジメントの開発委員会から始まりましたが、最終的には「プロジェクト&プログラムマネジメント」としてプログラムとプロジェクトを包括的に扱うガイドブックとして発展しました。これは、企業が多様な課題を統合的に解決し、全体を包括的に管理するために必要なアプローチです。そのため「プログラムマネジメント」が導入され、価値創造のマネジメントとして位置づけられました。この考え方は、世界的にも新しく、イギリスの「PRINCE」などのプログラムマネジメント手法にも影響を与えたとされています。

 

P2Mの目的は、日本企業が「ものづくり中心」から「仕組みづくりによる再生」へと転換するためのガイドラインを提供することです。PMAJはこの目標を掲げる組織として再設計され、合併されたたと私は理解しています。P2Mに関連する書籍には「Enterprise Innovation」という言葉が明確に記載されています。初版では「3Sモデル(企画づくり、システムづくり、利用づくり)」という表現は使われていませんでしたが、その概念は当初からP2Mの中に組み込まれていました。

 

P2Mでは、単発のプロジェクトではなく、3つのプロジェクトが結合してプログラムを構成し、そのプログラムが次のプログラムへと循環することで、連鎖的・波及的に価値を創造する「価値共創のモデル」が提唱されています。この「連鎖波及的」という考え方はP2M独自の概念であり、PMAJが目指す方向性でもあります。

 

さらに、P2Mは資格認定制度も持っています。この資格制度は、生産技術と経営の融合によって、現代社会の複雑な課題を解決する能力を育成するためのものです。この資格制度を通じて、ビジネスモデルの進化に必要な人材育成が行われています。資格認定制度の成果として、P2Mは「使命達成型職業人」を育成することを目指しています。最近のガイドブックでは「ミッション志向プロフェッショナル」とも表現されていますが、日本語の「使命達成型職業人」の方が分かりやすいため、私はこちらを使用します。使命達成型職業人とは、さまざまな専門分野を横断し、責任を持って解決策を導き出す人物を指します。ハードウェアやソフトウェアといった異なる領域を統合し、知識と情報を活用して社会に貢献することが求められます。

 

P2Mの資格体系は、プロジェクトマネジメント(PM)に関する重要な情報を提供しており、特に「P2M for Enterprise Innovation」は、構想・企画から運用・サービスモデルまで幅広くカバーする点で、他の標準的なプロジェクトマネジメントとは異なります。この資格認定制度は20年以上にわたって運営されており、その実績からも重要性が認識されています。これを継承し、さらに発展させることがPMAJの使命であり、私たちが今後取り組むべき課題です。さらに、JPMFやPMCCの活動を統合し、資格制度や学習イベント、ガイドブックの発行などを組み合わせることで、PMAJの使命を果たしています。これらの活動は、プロジェクトマネジメントの普及と社会貢献を目的としています。

 

この考え方を明確にするために、私は「ニュービジョン」という形で新しいミッションを設定しました。このミッションは私が過去の経緯を踏まえて、こうあるべきだと考えるものを個人的に定義したものです。私自身がPMAJの設立に直接関与したわけではありませんが、2005年にPMAJが設立され、その後、どのような使命を持って活動してきたのかを私なりに設定したものですので、このニュービジョンをベースに説明しています。

 

私は2019年7月に理事長に就任し、6年間活動してきました。この間、COVID-19のパンデミックの影響で、一時的に活動が制限されたこともありましたが、皆様のご協力とご支援のおかげで継続することができました。この場を借りて感謝申し上げます。

この6年間を振り返ると、さまざまな出来事がありましたが、試行錯誤を重ねながらも何とか前に進めてきたというのが正直なところです。振り返ってみると、大変なこともありましたが、その中で少しずつ進展を遂げることができたと感じています。そこで、私が発表したセミナーやシンポジウム、オンラインジャーナルへの投稿などを振り返ってみました。

 

2020年1月に、オンラインジャーナルの「理事長コーナー」に投稿した内容についてお話しします。私の初夢として、プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)は、新たなテーマとして「PMテーマパーク」を目指すことを掲げています。その背景には、私のITエンジニアリング企業での経験があり、日本市場で企業のエンタープライズプロジェクトマネジメントを推進する必要性を感じたことが関係しています。

 

具体的には、「PMAJプラットフォーム戦略」という考え方に基づき、2020年1月に九州と沖縄でセミナーで講演しました。このセミナーでは、企業、自治体、公益法人を対象に、プロジェクトマネジメントに関するさまざまなサービスを提供し、中でも、日本全体の公益に貢献することを目指し、リソースセンターの設立を提案しました。

 

当時の日本の産業構造について触れ、日本企業の成長を促すためには、縦割りではなく横通しの仕組みが必要だと述べています。この考え方は、特に日本の情報システムが経営に貢献しない形で発展してきてしまった背景を踏まえて、より横のつながりを強化する必要性を感じたからです。

 

アメリカも1990年代には縦割りだったが、それを横割りにするための活動を行っていた「エンタープライズプロジェクトマネジメント」の事例を紹介し、同じように日本でもそのような変革が必要だと指摘しています。この時期はコロナ禍も影響し、日本の産業構造や企業活動のあり方を再考する時期となっていました。

 

この時期から、プログラムマネジメントという言葉の重要性がより明確になり、これを中心にした経営が必要だということを主張し始めました。しかし、残念ながらプログラムマネジメントの認識が浸透するのには時間がかかり、思い通りには進まなかった部分もあります。

 

2021年のシンポジウムや九州PMセミナーでは、コロナの終息が期待される中で、サステナブルリカバリーに対してプログラムマネジメントが有効であることを強調して講演を行っています。この頃は、プログラムマネジメントを中心にした経営が必要であるという認識が広がりつつありました。

 

2021年10月からは、P2Mガイドブックの改訂4版に関する議論も進んでおり、イノベーションマネジメントとともにバックキャスティングやロードマッピングを活用し、プロジェクトマネジメントのあるべき姿をまとめることが行われました。これによって、企業活動全体をプロジェクトマネジメントのにより戦略から目的達成に至るプロセスを明確にし、縦割りではなく全体が協力して進んでいくことの重要性が明確に打ち出されました。

 

2023年の講演からは、COVID-19の影響を受けて、予測が難しい時代におけるプログラムマネジメントの重要性が強調されました。この時代には、多様な価値観をバランスよく取り入れ、広い視野高い視点を持った人材が必要だと、使命達成型職業人の重要性を強調するとともに、自分自身が進むべき道を見つけ、探索的に目標を定めて実行することが求めらる点を強調しています。

 

2023年3月、無料のセミナーを開催し、テーマとして「PMBOK第7版の改定」が取り上げられました。セミナーでは、将来が予測困難な時代におけるロードマッピングの重要性を中心に話しました。この考え方は、MITの教科書に基づく「デザイン思考」や、その基礎となる「デザイン・エンジニアリング・ビジネス」の考え方が、P2Mの3Sモデルに通じるものという観点から、P2Mは、イノベーションを進めるためにも非常に重要だと提案しています。

 

その後、現在のビジネスがサービス中心になって来ていることを調査する中で、「サービスドミナントロジック」と「グッドドミナントロジック」の違いを学びました。20世紀のビジネスは、物を作って売る(交換価値)という考え方に基づいていましたが、現代のビジネスは、物を含むすべてのものが「サービスの一部」として、顧客体験を通じて価値を創造していく考え方(顧客体験価値)にシフトしています。この考え方は、ビジネスやサービスがより高度化し、顧客とともに成長していくことを意味しています。

 

これからのビジネスは「サービスエコノミー」や「プログラムマネジメント」といった概念に基づいて進化し、単なるプロジェクト管理から一歩進んだアプローチが必要だと認識しています。このような新しい視点に基づくアプローチは、2023年のシンポジウムで明確に示されました。

 

2023年11月のオンラインジャーナルに、「PMAJに行ってみよう」という言葉を使用しました。これは、私が描く理想のPMAJの姿で、PM実務が何か分からないとき悩んだときに「PMAJに行ってみよう」と思えるような存在を目指すという意味です。実は、この発想は、私がPM研修研究部会で活動していたある日、日揮のベテランPMの方が突然研究部会に参加され、部会メンバーとして活動を始めた際に、私が理由を聞いたら、「ネットで調べてみた結果、PMAJが一番情報が豊富だったので来ました」と話してくれた実話に基づいています。その時、私はPMAJの「あるべき未来像」について気づかされました。

 

2023年12月、エンジ協会にお願いして、PMAJの話をさせてもらいました。そこで伝えたのは、「目的達成よりも組織の維持を優先する縦割り組織の硬直した体質を変革し、目的達成を優先する組織運営にシフトする必要がある」ということです。そのためには、三方よしの考え方(売手良し、買い手良し、世間良し)を基にした価値共創のプログラムマネジメントが重要だと述べました。これを実現するためには、縦割りの運営を横断的に連携させ、経営の階層(戦略、事業計画、サービス運用)を包括的に統合することが求められます。この統合を実現したあるべき姿が、3Sモデル(サービス・スキーム・システム)として表現されます、という講演を実施しました。

 

2024年3月のPMAJの会員向けセミナーでは「日本流DXの勧め」というテーマで話をしました。この時、サービスドミナントロジックという考え方を取り入れ、ステークホルダーが協力して価値を共創していく重要性を強調しました。このアプローチでは、企業とお客様が一緒に価値を高め、共に成長していくことが求められます。

 

サービスには、「生産と消費の同時性」とか、「提供者と利用者の共同が必要である」など、価値共創が前提となる特徴があります。地方創生などの活動は、まさに、住民、行政、企業の協働が必要であり、したがって、プログラムマネジメントという視点で地域の価値共創を支援することがPMAJの目指べき道だという観点でお話ししています。例えば、九州の地方創生における事例を挙げ、プログラムマネジメントが重要な役割を果たすことを述べています。この考え方は、昨年の会員向けセミナーでも強調しました。

 

1990年代半ばから日本の国際競争力が低下していることが問題になっています。実は、その原因はアメリカのクリントン政権が推進したナショナルインフォメーションインフラストラクチャー(NII)構想にあります。この構想は、もともと軍事技術だったARPAネットを民間に解放することで米国の産業の強化を狙った戦略ですが、その成果はすぐに表れ、MicrosoftやGoogle、Amazonなどの企業が90年代から急成長しました。このようなサービスビジネスへの大転換が起こっていることに対して、日本は物作りにこだわり、仕組みづくりに対応できなかったことが競争力低下の一因です。

 

日本がこれに対処するためには、縦割りの産業構造を目的達成を目指すプログラムマネジメント中心のビジネスへ展開する必要があります。しかし、これまではこの点が浸透していないように思います。この転換を実施するためには、しかしまだ遅くはありません。次のステップとして「P2M事業モデル」を採用することが有効だと考えています。このモデルは、私が、エンタープライズプロジェクトマネジメントビジネスで目指していたものと一致しており、P2Mが2001年に提唱した、「日本企業はモノづくり中心のビジネスから「仕組みづくり」中心のビジネスに転換する必要がある」という世界の実現に向けた重要な一歩です。P2M事業モデルは、企業活動を包括的に視覚化するものであり、これは開発委員会のメンバーの方々が、日頃のビジネス支援で苦労されてきた経験が多く反映されています。このP2M事業モデルの発想は、今後のプログラムマネジメント普及に大きく貢献すると確信しています。また、このモデルはPM実務家の皆様に自身のキャリアパスのロールモデルとしても役立ち、日本産業全体の人材育成の体系を明確にしていると感じています。

 

ここからが本日のテーマ「2025年の抱負」についての話になります。その前に、2025年はプログラムマネジメントにとって追い風が吹く年になるのではないか、という予感があります。プログラムマネジメントという言葉自体は、まだ広く浸透しているとは言えません。そのため、これまでさまざまな表現を試みながら説明を重ねてきました。最近、この概念に対する認識が高まりつつあるのではないかと感じています。

 

その背景には、P2Mガイドブックの改訂4版が発行されたことが大きく影響しています。ガイドブック改訂4版は、PMAJがこれまで目指してきた内容を具体的なフレームワークとして示し、原則や原理も含めて体系化したものといえます。

 

この改訂版では、継続的にイノベーションを生み出すために「ペンタスロンフレームワーク」を取り入れたP2M事業モデルが定義されています。ペンタスロンとは「五角形」という意味で、このモデルは事業戦略、基盤、構想・検証・実装の5つの要素で構成されています。これらを組み合わせてイノベーションを進めるという考え方です。特に、「構想と検証」はスキーム(仕組み)、「実装」はシステム、「運用」はサービスとして捉えられ、P2Mの3Sモデルとの親和性が高いと言えます。

 

そして、この「3Sモデル」が企業のマネジメントの構成要素である、戦略・プロセス(プログラム・プロジェクト)・経営基盤中に統合され、事業活動を包括的に整理したものが、今回のP2M事業モデルで示されています。

 

先ほど説明しましたように、使命達成型職業人にとってのロードマップ、つまりロールモデルが、この資格体系の中に組み込まれています。これが、P2M改訂4版の意義とも言えます。

 

プログラムマネジメントに対する認識が高まっているという話ですが、その一例として、昨年9月に『日経コンピュータ』に掲載された記事があります。この記事では、標準ガイドブックP2M改訂4版について、「事業の価値を全体的に提示するものだ」と述べています。さらに、日本企業の役員向けの提案として、組織内でプログラムやプロジェクトを担う部門、例えば情報システム部門が事務局となり、P2Mの勉強会を開くことが有効ではないかという具体的な提案も含まれています。このように、プログラムマネジメントへの理解が広がりつつある状況です。

 

また、1月の日経クロステックでは、「プロジェクトはなぜ好まれ、プログラムは敬遠されるのか」という記事がリリースされ、この中で、日本プロジェクトマネジメント協会がまとめた知識体系P2M(プログラム&プロジェクトマネジメント)」について説明されています。昨年9月に改訂第4版が発行されたことにも触れています。こうした情報発信が少しでも追い風になればと思っています。

 

PMAJ活動の中で、会員活動が広がってきているという話があります。先ほど、紹介されたP2M普及推進部会は、昨年から活動を始めました。そして、1月31日には「P2M改定ガイドブックを学ぶSIG」がスタートします。このプログラムマネジメントは、PMAJとして明確に推進していくものです。

 

このような活動をまとめている中で、改めて感じたことは、私自身の抱負が全く変わっていないということです。それは「日本を今一度横通しいたし申候」ということです。坂本竜馬の言葉を引用しましたけど、日本企業には、いわゆる縦割りの組織がまだ多くあります。役割を明確に決定してその通りに進めるという形ではなく、目的に対して柔軟に変化に対応しながら進めていくべきです。そのためには、縦割りを横割りに変えて、マネジメントを通じて運営していく必要があります。このような流れをP2Mのガイドブックが示しており、それに基づく改革が必要だと改めて感じました。

 

コミュニティの活性化や、P2M資格受験生の増加についてお話しします。P2Mの改訂版が出版されたことも影響して、最近、PMの受験生は増えております。さらに、事務局ではDXを活用したITサービス提供が整いつつあり、情報提供も改善されつつあります。このような背景を踏まえ、プロジェクトマネジメントの向上を通じて社会に活力をもたらすことが重要です。今年は、サステナブルPMの実現を明確に方向性として示し、それを進めていく必要があります。

 

これまでの活動は、下記のような段階的成長モデルに基づいて進められてきたと説明できます。

PMAJ1.0では、PMJF(日本プロジェクトマネジメントフォーラム)が結成された際にスタートしました。この段階では、PM実務家が研鑽の場としてのコミュニティを形成することが目標でした。

 

PMAJ 2.0で、日本独自のプログラムマネジメントの体系を構築し、プロジェクトマネジメントを包括するマネジメント体系が必要だということが明確に示されました。

 

PMAJ 3.0は、使命達成型職業人の生涯学習を支える「場」と「手段」と「指針」の枠組みが作られました。この時点で、プロジェクトマネジメントとプログラムマネジメントを支える基盤が定義されました。

 

PMAJ 4.0の段階では、企業活動全体をカバーする枠組みが作られました。この段階で、3Sモデルと呼ばれるものが企業活動に組み込まれました。

 

PMAJ 5.0では、P2M事業モデルにより、企業全体の活動を包括的にカバーするフレームワークが確立され、この中で、戦略的なプロセスと基盤が位置づけられました。このフレームワークは、プログラムマネジメントを中心とした管理のロールモデルとして確立されたと言えます。

 

最終的に、これを活用して、P2Mを社会全体に広めていきたいというのが、私の目標であり抱負です。

3月7日に「プログラムマネジメント革命」について発表します。これは「プログラムマネジメントトランスフォーメーション」の意味を込めたものです。内容については、改めて発表しますのでご期待ください。今日の発表はこれで終わります。ご清聴ありがとうございました。

 


 <参加者対話>  

・PMAJ及びP2Mのこれまでの歴史についてのオーバービュー及び「2025年の抱負」について話題提供を頂きました。皆さんもP2Mとさまざまな関わりがあると思いますので、それぞれの立場で質問や意見があれば、遠慮なくお聞かせください。後半はディスカッションを盛り上げたいと思います。

 

・加藤さんの話を聞いて、私からもいくつか提案をさせていただきます。まず、P2M第4版が非常に分かりやすくなり、外部へのアプローチがしやすくなったと思います。しかし、P2Mの考え方が自分たちの経営や運営にどれだけ適用されているかについては疑問があります。

 

私は、P2Mの手法に基づいて将来の目標を設定し、バックキャスト(逆算)で課題を明確にして行動計画を立てることが重要だとは考えていますが、残念ながら、自分自身の業務でそれを明確に実行できているかは自信がありません。

 

特に、現在のPMAJの最大の課題は会員数の減少です。PMAJが2005年に設立されたときは2800人の会員がいましたが、今は大幅に減少しています。原因として、会員に提供する魅力や付加価値が不足していることが挙げられます。

 

一方、PMI JAPANなどの他の団体は増加傾向にあります。PMに対するニーズは存在しているにもかかわらず、P2MやPMAJの良さが十分に認識されていない現実があります。

 

理事長とともに会員増強策や部会の活性化を進めていますが、将来を見据えた戦略を立て、今何をすべきかを明確にする必要があります。P2Mというツールがあるので、それを自分たちにも適用していくべきだと思います。

 

提案された「PMテーマパーク」構想は非常に良いアイデアだと思います。魅力的な場を作り、そこに人々が集まることが重要です。PMAJに集まってくる人たちを惹きつける魅力を持った場にする必要があります。

 

そのためには、組織経営における重要なポイントを押さえるべきです。それは「他者ができないことをする」または「他者がやらないことをする」ということです。PMAJが提供できる価値は、業界で言うとプログラムマネジメントに特化することです。これがPMAJの売りとなり、他の団体との差別化を図るために重要な要素だと考えています。

 

・私は現在IT業界の若い人たちと接点を持っていますが、その接点を維持することが難しくなってきたと感じています。ITという分野は一口にまとめることはできなく、専門的な分野に細分化されていますので、それぞれの分野に対応しなければなりません。P2Mがこれらの要因にうまく適応できているか難しいと考えています。あくまで私の仮説ですがそのように思います。

 

・先ほどの説明で興味深かったのは、「プロジェクトは好まれる一方で、プログラムは嫌われる」という記事がありましたが、なぜそう言えるのか、その理由についての記述はありますか?

 

・記事では、具体的な理由については明確にされていません。「こうしなければならない」ではなく、「こういうことがある」という内容にとどまっています。その中で、プログラムマネジメントも重要だという話で、その言葉が含まれていたのです。日本では、いわゆる縦割りの構造が強いため、プログラムという全体的な話は好まれないという記述もあります。

 

日経コンピュータの記事ではP2Mを学ぶことを勧めるという提案がありましたが、このクロステックの記事ではP2Mについて学ぶべきだという具体的な提案はされていませんでした。

 

・現在関わっている地域活動と照らし合わせて聞いていました。キーワードとしては、「縦割りから横割り」です。今後もこの考え方を、地域の横の連携を強化するために活かしていきたいと思っています。横の連携を広げていくことが大事で、それを進めていく自信を持つことができました。

 

会員数の減少についてですが、最近北九州市の記事を見て驚きました。これまで転出が転入を上回っていたのですが、昨年から転入が増えてきたのです。その背景には企業誘致や住民サービスの改善があります。例えば、保育料の無償化など、住みやすさを高める施策によって人口が増え、この変化に繋がったのです。これらは非常に大きな成果であり、PMAJも参照にすべきだと思います。

 

PMの活動においても、特に20代、30代の参加者が増えてきていることは注目すべきです。とはいえ、まだまだ50代中心の活動が多く、若年層が求めるテーマをしっかり把握し、反映していくことが重要だと考えています。

 

SIG(特定専門グループ)の活動についても、参加者が10人、20人規模で行っているのに対して、会員数が800人以上いる中では、その活動が適当か疑問です。活動の価値をもっと多くの会員と共有する方法を考えなければ、SIG活動そのものの価値が薄れてしまうと思います。

 

私は現在「物語研究会」にも参加していますが、そのノウハウをもっと広めて、800人以上の個人会員にしっかりと共有する必要があると感じています。限られた人数で活動しても、それが広がらなければ意味がないので、そういった取り組みが重要だと考えます。

 

・今のPMAJを見ていると、誰を対象にしているのか、分からなくなってきている気がします。たとえば、まだP2Mを知らない若手社員が対象なのか、それとも社会に出て壁にぶつかり、何かを学びたいと思っている層なのか。それとも、経営に関わるような上級層向けのテーマなのか、マーケットがはっきりしないまま色々なことを行っているように感じます。今日の話を聞いて、考え方の大きな方向性は理解できましたが、次に進むべきステップとして、アーキテクチャを構築し、ターゲットマーケットを明確にした上で、それぞれの市場に合わせた施策を練らないといけないと感じました。

 

先日送っていただいた資料を見ると、最上位のPMA(Program Management Architect)の資格が消えているのが気になりました。PMAの資格認定に関しては、認定できる人がいないという問題もあります。PMRでも十分に大変な仕事ですが、認証する側の人間がいないと、この問題は解決できません。

 

P2Mの資格体系には一貫性が欠けていたのかもしれません。例えば、PMRはプロジェクトマネージャーレジスタードだった時期もあり、その後プログラムマナジャーレジスタードに変更されました。資格の一貫性が欠けていることが問題の一因かもしれません。

 

セミナーや教育の対象を、色で分けて、レベル別に調整することで、マーケットにどのようにアプローチするかが変わると思います。会員数を増やすためにPMR資格の試験を実施するにしても、人数が足りないと感じます。ターゲット市場を意識して、認定を進めていく必要があります。

 

・社会人になると、プロジェクトやプログラムについて、特に新たに学ばなくてもできると感じることが多いのではないでしょうか。社内で受けた教育やその文化に従っていれば、品質保障体系などが整っていて、プロジェクトやプログラムが進んでいるように見えます。これはあくまで社内の話であり、社会的な認知を得るためにはどうすればいいのかが重要です。会社での経験や実績をどのように社会に認めてもらうかを考える必要があります。

 

私の場合、若い頃に海外に出る機会があり、海外での経験を通じて自分の軸を持ちたいと考えるようになりました。その結果、プロジェクトマネジメント(PM)に取り組むことになりました。もし日本にいたら、PMに取り組むことはなかったかもしれません。PMの価値を社会にどう認知してもらうかは、戦略的に考えていくべき課題だと思います。

 

・今のお話に少し関連する部分がありますが、プログラムという概念は、経営層をターゲットにしたコンセプトです。この点はプロモーションが必要だと思いますが、若い人々にとっては、あまり関係がないように感じるかもしれません。若い人たちは、プログラムの全体像を見通すことが難しく、まずは日常的なプロジェクトにどう取り組むかが最も関心のあることです。その段階で「これからはプログラムだ」と言われても、興味を持って勉強しようとする人は限られると思います。

 

プログラムの考え方はピラミッドの上流に位置し、マーケットとしては非常に狭いものです。下流の広い部分にはまだ十分なアプローチができていないのが現実です。理論としては上流の部分を追求しなければならないことは理解できますが、マーケット開拓のためにプログラムだと訴求する方法に工夫が必要だと感じます。そこが現在の課題の一つだと思います。PMC資格を受けた人に、どのようにしてP2Mを継続してもらうかが重要だと思います。PMCを取得しても、その後すぐに関係が切れてしまうケースがよく見受けられます。せっかくPMCに興味を持ったのであれば、その後PMS/PMRという流れをどう作るかを再度考える必要があると感じました。

 

・DX時代において、多くのステークホルダーが関わっている状況にあります。経営的観点からもDXを進める必要があるため、プログラム的なアプローチが求められていることが分かってきました。最近は、プログラムという概念がより身近になってきたと感じています。以前は大規模なものとして認識されていたプログラムも、今では規模の小さなものも対応しています。その考え方を強く感じたのは、PM学会のセミナーに参加した時でした。単一のプロジェクトだけではなく、プログラムやポートフォリオマネジメント的な進め方が必要とされており、DXの時代においてこの考え方がますます重要になっています。

 

こうした変化を背景に、P2Mを積極的に認知し、DXの時代に対応していかなければならないと感じています。デジタル庁やIPAへのアプローチを積極的に行い、さまざまな仕掛けをしています。今後も多くの機会で積極的に働きかけていくことが重要だと思います。

 

・プログラムマネジメントとは、もともと社長や上層部向けのものというイメージがありましたが、実際にはそういったイメージに関係なく、大学を卒業したばかりの若い人たちが、スタートアップでさまざまなことを考えて実行している現実があります。そのような時に、P2Mは非常に有益だと思っています。

 

資格を取得することも重要ですが、まずはP2Mを知ってもらい、勉強してもらうことが日本社会にとって大切だと感じています。資格を重視するのではなく、P2Mを学び、理解を深めてもらうことが重要です。

 

日本の競争力が低下している時代、何ができるかをうまく伝えることが大事です。業界や団体などでP2Mを紹介し、少しでも多くの人に学んでもらえるようにすることが求められています。講習会や短いセミナーなどでその知識を広め、参加した人に証明書のようなものを発行するなど、工夫しながら普及を進めることが必要です。いろいろな団体と連携しながら、この活動を広げていくことが重要だと考えています。

 

・プログラムマネジメントについてですが、私の考えでは、単に知識だけを持っていることではなく、実際に経験を通じて得たものが大切だと思います。例えば、若くしてスタートアップを始める人たちが増えている時代ですし、それが必要とされている場面も多いですが、どんな場合でも経験が重要です。

 

PMBOKなどの知識体系についてですが、個人的には違和感を感じる部分もあります。私は、技術士の資格を持っており、要素技術と管理技術を学んできましたが、プロジェクトマネジメントは明らかに管理技術の一種です。管理技術として、品質管理やQCも非常に重要であり、それらの方法論をうまく使うことで問題解決が可能になります。

 

ただし、これだけでは十分ではありません。海外の企業では、品質管理やその他の管理手法を実行するだけでは通用しない部分があり、それを超えるような能力や知識が求められます。そうした背景から、私はプロジェクトマネジメントに深く関わるようになりました。

 

経験を積んだ人は、その効果を実感し、広めたいと思うものです。問題はその知識をどう伝えるかです。やった方が良いと言っても、面倒だと感じる人もいれば、費用がかかることを懸念する人もいるので、その価値をどう理解してもらうかが大切です。

 

重要なのは、どう伝えるか、どのように広めていくかについては考え続ける必要があります。スタートアップ支援の場面で、例えば専門的な講座を開催することなどもひとつの方法だと思います。このような取り組みが有効であることを感じています。

 

・どうして協会の会員数がこの程度で止まっているのか、不思議に思います。10倍くらいあってもいいように感じるのですが、なぜなのでしょうか?

一つの理由として、P2Mなどの価値がまだ十分に認知されていないことが挙げられます。また、会員になるメリットの訴求が弱いことも影響していると思います。そのために、例えば部会やSIG(特別研究グループ)を活用し、PMAJに入るとさまざまな資料が得られることや、多くの仲間と交流できること、困ったときに助け合える環境があることをしっかりと伝えることが重要です。これらの魅力をどのように伝え、今後参加してくれる可能性のある人々にアピールできるかが、会員数の増加に大きく関わっているのではないかと思います。

 

・私はホンダという少し変わった会社にいたおかげで、「物事の根本や根源は何か?」を、一人ひとりが徹底的に考えるように育てられました。なぜかというと、当時の会社には経験や実績の蓄積がなく、ほとんどのことが初めてだったからです。そのため、「世の中にすでにあるものを知らなければ、新しいことを生み出すのは難しい」と考えました。

 

何かを決める際には、「これまでの流れの中で、私たちはどこに焦点を当てるのか?」「どうやって新しい軸を生み出すのか?」を説明しなければ、納得してもらえませんでした。単なる思いつきではなく、しっかりと腹落ちする形で提案しなければならず、何度も突き返されることで鍛えられました。

 

会社が大きくなるにつれて、システマチックになり、売上や資本が増えると、こうした原体験が少なくなりました。その結果、縦割りの弊害が生まれ、会社が傾きかけたのです。その要因の一つが、市場の変化を見誤ったことでした。スポーティーな車ばかり作っていたため、RVブームに乗り遅れ、「他社に吸収されるのでは?」と危惧される状況に陥りました。

 

そんな中、私たちの世代は「そもそも論」を得意としていたため、新たな視点で議論を重ね、初めて商品企画部門を立ち上げました。それまで会社は「決まったことを効率よく進める」ことに注力していましたが、「そもそも何を作るべきか」「お客様は何を求めているのか」といった根本的な視点が欠けていました。

 

「これまでの延長ではダメだ」と改めて考え直し、「本当にやるべきことは何か?」を企画し直しました。そして数ヶ月でRVのラインナップを再構築し、商品のコンセプトを明確に説明できる形に整え、社長に提案しました。

 

経営の視点から最初に何を決めなければならないのかを徹底的に鍛えられました。しかし、人は経験していないことを考えたり実行したりするのが難しいものです。個人の勘や経験、度胸だけでは限界があると痛感しました。

 

当時、新しい組織が立ち上がり、情報の蓄積がほとんどない状況でした。限られた人員で知恵を絞る必要があり、全員の持っている情報を共有しようという方針が打ち出されました。その一環として、私は「ファイリング委員」を担当し、情報の整理を進めることになりました。

 

この作業を通じて、「情報とは何か」「人はどのように情報を認識し活用するのか」「使えないものは情報ではなくノイズではないか」といった根本的な問いを考えさせられました。その結果、集団で物事を考え、同じ目標に向かって進む方法論の手がかりをつかめたように感じました。

 

創業者の手腕に頼っていた企業は、次世代の経営者がシステム化を試みました。その際に記録が残されたものの、時間が経つと誰も読まなくなり、忘れ去られてしまいました。「もっと早く知っていれば、スムーズに進められたのに」と後から気づきました。

 

過去の成功事例を分析すると、「まず何を決めるべきか」を明確にしたことで、独創的なアイデアの意思決定が、迅速に行われていたことが分かります。進めながら軌道修正することは必要ですが、「最初にどこまで考え、どこからは柔軟に対応するのか」という点が極めて重要だと実感しました。

 

本日の話の中でも、企画の重要性が改めて浮き彫りになりました。例えば、プログラムを作る際には、最終的なコードを書く前に、アルゴリズムやストラテジーを考え、情報の整理や意味付けを行う必要があります。同様に、経営やプロジェクト運営においても、初期の戦略設計が成功の鍵を握るのだと確信しています。

 

・今日のお話をとても興味深く感じました。話の流れが整理されていて、非常に分かりやすかったです。若い人たちは、情報やデータを多く持っていますが、それを活用する力が十分とは言えません。知識として蓄えているものの、実際に使いこなせるスキルや経験が不足しているように感じます。マニュアルは持っていても、使い込んだ道具がない状態です。そのため、原体験がないと知識が実際の行動につながりにくいのです。一度でも実体験をすれば、視界が大きく開けるはずです。

 

ここ数十年、そうした経験を積む機会がなかなか与えられていません。いきなり「何も教えずに、これやれ」と言われても、厳しい状況にさらされるだけです。表面的な勉強だけではプロとして通用しません。自分が目指す方向をしっかり持ち、そのために自分のポテンシャルを最大限発揮できる方法を考え、確信を持って行動することが重要だと思います。

 

会社を定年退職した後、このままでは成長できないと考え、コンサルティングの仕事を始めました。技術コンサルタントという肩書ですが、ものづくりに限らず、あらゆる分野に共通する「技術」と「技能」があると感じています。人が納得し、動くためには何が必要なのか。プレゼンテーションやコミュニケーションも、結局は技術の一つです。そうしたことを深く考える中で、今日のお話がまさに自分にとってのテーマと重なりました。

 

・「早く会員になった下さい!」と言われていますが、まだ躊躇しています。それは、日本プロジェクトマネジメント協会の考え方を完全に咀嚼できていないからです。方法論や組織の仕組みは理解できますが、「なぜこうなったのか」「どこをどう変えたいのか」「最終的に世の中をどうしたいのか」といった根本的な部分を、まだ自分の中でしっかり受け止められていません。

 

このまま参加しても、自分の考えが整理できていない状態で加わると、余計なことばかり言ってしまいそうで、不安があるのです。だからこそ、もう少し自分の中で考えを深め、しっかりと整理した上で行動したいと思っています。

 

・P2Mのプログラムマネジメントを今後どのように推進・普及させていくかについて、さまざまな講座を開いたりしています。その中で、プログラムマネジメントをもっと認知してもらうための工夫を考えていきたいと思っています。認知されていない概念をどう広めるかが課題だと感じます。「プログラムマネジメント」という言葉だけを前面に出しても、何のことかわからない人が多いのが現状です。そのため、まず「プロジェクトマネジメント」から入って、そこからプログラムマネジメントの重要性を伝えていく工夫が必要だと考えさせられました。

 

・いろいろなお話を聞いていると、P2MやPMAJへの深い愛情を感じます。私自身はまだプロジェクトリーダーとしての経験が浅く、小規模な業務が中心ですが、プロジェクトやプログラムには規模の制限がないので、小さな規模でも適用できることが多いと感じています。今の部署にずっといるわけではないので、将来的には大きなプロジェクトに挑戦したいと思っています。そのために、実際に取り組んでから学ぶのでは遅いと考え、事前に学習を進めているところです。

 

私が特に思うのは、30代の集まりが欲しいということです。参加する中で、年齢層の違いを感じることがあり、時には迷いもありました。しかし、学び続けることの重要性を感じているので、続けています。もちろん、年上の方々の意見は貴重ですが、同世代の視点も欲しいと感じています。私と同じ年齢でバリバリ活躍しているプロジェクトマネージャーがたくさんいると思いますし、社内にもそういう人はいます。

 

モヤモヤしたり、悩みを抱えたりすることもありますが、それを言語化するのが難しいと感じています。この「P2Mクラブ」は単なる勉強の場ではなく、コミュニティだと思っています。資格を取るだけなら、取得後に去ることもできますが、せっかくなら同じ世代の人たちと交流し、意見を交わしたいと考えています。そのため、日々勉強を続けています。

 

お話にもあったように、市場のことを考える上でも、30代から40代くらいの世代が集まれる場があれば、お互いに刺激し合い、知見を共有できるのではないかと思います。そうした場ができることを期待しています。

 

・悩みがありましたら、PMAJの「駆け込み寺」という場もあります。ぜひ活用ください。

・興味あります。一度相談したいなと思っているんですが、悩んでいることが未だモヤモヤしている状態です。

・そういう状態でも全然大丈夫です。

・悩みを相談する時って、ある程度言葉にできてからのほうが行きやすいかなと思うんです。

 でも、そういう相談を歓迎してもらえるのは本当に嬉しいです。お声掛け頂いたので、ぜひ活用してみたいです。

 

・海外赴任していたときの話です。28歳で赴任したのですが、駐在員の方々はゴルフがとても上手でした。所長クラスは50代、先輩も40代で、シングルプレイヤーの方もいるほどでした。若手が次々と赴任してくるものの、なかなか上司や先輩と一緒にゴルフをする機会がありませんでした。

 

そこで、当時の若手社員たちで「ゴルフクラブ」を作りました。独自のルールを設け、例えば3回空振りしたらプラス2打でホールアウト、3回OBを出したらそのホールはプラス2打で終了とするなど、周囲に迷惑をかけないよう工夫しました。みんなでワイワイ楽しみながらも、最低限のマナーやゴルフの知識は互いに学び合いました。すると、その様子を見た先輩方が「面白そうだな」と興味を持ち、逆に参加するようになったんです。最初は4名ほどの小さなコミュニティでしたが、徐々に広がっていきました。

 

現在の30代の方々も、こうしたコミュニティを作ることで、解決できない問題を共有し、必要に応じて相談できる場を持つのが良いのではないでしょうか。例えば、PMAJの事務局から30代の方々に声をかけ、交流の場を設けるなどのきっかけ作りができれば、具体的に動きだすかもしれません。誰かが旗振り役となって動かないと、なかなか始まりません。何か具体的なアクションにつながればいいなと思います。

 

・IT業界の人たちとやり取りする中で、彼らとプロジェクトマネジメントについて話す機会がありました。プログラムマネジメントは進化しているのに対し、プロジェクトマネジメントの方はほとんど変化していないと感じました。

 IT系の若い人たちと話していると、従来のプロジェクトマネジメントの細かいルールは必ずしも必要ではなく、もっとシンプルな知識やスキルで十分対応できることが分かりました。

 

そのため、「まずプロジェクトマネジメントを学びましょう」と押し付けるのではなく、彼らの悩みを聞き、「必要ならこの部分を学んでみては?」と提案する形が効果的だと考えました。そのアプローチを取ることで、もともとプロジェクトマネジメントに興味がなかった人が、最終的にPMP試験を受けるまでになりました。「こうすればプロジェクトをうまく管理できるんですね」と実感してもらえたのです。

 

彼らの多くは「マネジメント自体をしたくない」と考えており、そこにプロジェクトマネジメントを全面的に持ち込むと敬遠されてしまいます。「あなたに必要なのはこの部分だけでいいから、やってみては?」と伝えると、納得してくれることが多いのです。まずはそこから始めるべきだと思っています。P2Mが素晴らしいという意見もありますが、第三者から見ると「そんなに良いもの」とは思われていないのが現実です。この認識のギャップは非常に大きいと感じます。

 

PMの資格を持っている人は、現場に直接飛び込んで実践し、自分の強みを発揮する方が良いのではないでしょうか。議論するだけでなく、自ら行動して経験を積むことが重要です。私はこの5年間、あえて特定の組織との関わりを持たず、現場に入り込んでみました。まずは現場の人々の話をしっかり聞くことが何より大切だと改めて実感しています。

 

・今回の第4版では、プロジェクトマネジメントの部分で余計な情報を省き、プロジェクトマネジメントに必要な要素だけを取り入れた形になっています。「これだけやればいい」というエッセンスを抽出し、小冊子としてまとめています。このように、情報を削ぎ落としたことで、むしろ本質的な部分に集中できるようになっています。ぜひ、ご一読ください。

 

・実際にプロジェクトを運営する人たちの話を聞かなければ、どこが足りないのかは見えてきません。エッセンスを渡されても、実際には理解しづらいものです。課題を分解し、役割を明確に示さないと、彼らも関心を持ってくれません。こうした調整をするのが、プロジェクトマネジメントの役割なのだと思います。

 

・フレームワークから入るのではなく、まず現場の人が何に困っていて、何に苦しんでいるのかを聞くことが大切です。そこから「この薬を試してみる?」と提案していく。この薬の出し方自体もアジャイル的で、ウォーターフォールではありません。ときには強い薬を出してしまい、「しまった」と思うこともありますが、それも試行錯誤の一環だと考えています。時に、若い人たちからは「これ、全然ダメじゃないですか」と指摘されることもあります。「ごめんごめん」と言いながら、別の薬を試してみる。そうやって調整しながら進めることが重要だと感じています。

 

・コンサルティングの仕事をしていますが、コンサル業界は怪しいと思われがちです。「金ばかり取って、結局役に立たない」と感じる人も多いでしょう。実際、ほとんどのコンサルは受け売りの知識を提供しているに過ぎません。そうであれば、セミナーに参加したり、本を読んだりした方が確実ではないかという意見もあります。

 

本当に役立つコンサルティングとは、相手のニーズを言語化する手助けができるかどうかにかかっています。7年間この仕事を続けてきて、それを再認識しています。「この場合ならこうすればいい」「必要なのはここ」と明確に示せる力が求められます。それができるためには、自分の中に多くの引き出しを持っていることが必要です。

 

コンサルタントは、どんな質問にも何かしら答えなければなりません。そのためには、単なる知識の蓄積ではなく、それを自分ごととして考え、実践できる力が必要です。知識を教えるだけの立場とは異なり、自分の経験をもとにした判断が求められるのです。より良いコンサルティングを提供するために、引き出しを増やし、基礎的な構造や理論を自分なりに整理し、体系化するよう努めています。そうすることで、それらの知識が強力なツールとなる可能性があるからです。

 

いくら理論を学んでも、実際に使いこなせなければ意味がありません。ただの理論として終わるのではなく、実際の現場でどう活かすかが重要です。そのギャップを埋めることこそが、コンサルの本質であり、一番難しい部分ですが、同時に最もやりがいを感じるところでもあります。

 

・我々としても反省すべき点があります。どうしても「フレームワークを適用すれば解決できる」という発想になりがちですが、まずは現場に入って悩みを聞き、それをフレームワークに落とし込むという逆のアプローチが必要かもしれません。

 

・少し弁解すると、「PMの知識を使えば100%解決できる」とは約束していません。「60点は保証できるが、残り40点は分からない。それは受け入れてほしい」と伝えています。それでも責任をすべて押し付けられても困るし、最終的には自分たちで解決する姿勢が必要です。プロジェクトは彼ら自身のものなのです。

 

・それは正しいと思います。謙虚さがなければ、より良い状態、理想的な結果を目指すことはできません。誰かのやり方をなぞるだけでは成長もありません。最終的には、自分で考え、決断し、自律した人材になってもらう必要があります。そのためのヒントは与えますが、私たち自身もまだ成長途中です。分かっていることは教えますが、それ以上のことは分からない部分もある。その謙虚さがなければ、技術者やプランナーとしての成長も止まってしまうのではないかと思います。

 

・「いろんな薬を出す」という例えはとても分かりやすいです。マネジメントは人間の知識や経験、性格によってやり方が変わります。自分のやり方でうまくいったとしても、それをそのまま他の人に当てはめて成功するとは限りません。むしろ、同じ方法でうまくいく可能性はほとんどないでしょう。

 

その場に応じた「処方箋」を出すことが大切です。そのアドバイスがすぐに役に立たなくても、「こんなやり方もあったな」と思い出せることが、後々の武器になるかもしれません。

 

だからこそ、マネジメントは難しいのです。ベストプラクティスというものも、実際には怪しいものです。なぜなら、「ベスト」は人それぞれ違うからです。

 

・私は技術士会とリスクマネジメント協会など、複数の組織に関わっています。技術士会では、技術者が国際標準で3つのカテゴリーに分類されています。日本ではプロフェッショナルエンジニアのみが承認されていますが、実は「エンジニアリング・テクノロジスト」「エンジニアリング・テクニシャン」という区分もあります。

 

元JABEE(日本技術者教育認定機構)会長は、これを「作曲家」「指揮者」「演奏家」に例えて説明していました。音楽と同じように、どの役割も欠けてはなりません。

「演奏家(パフォーマー)」=プロジェクトチームのメンバー

「指揮者(コンダクター)」=プロジェクトマネージャー

「作曲家」=プログラムマネージャー

 

チームのメンバー全員が必ずしもプロジェクトマネージャーやプログラムマネージャーになりたいわけではありません。バイオリニストやピアニストとして演奏を続けたい人もいれば、指揮者を目指す人、作曲家になりたい人もいる。それは個人の志向によるものであり、必ずしも段階的にキャリアアップする必要はないのです。

 

この考え方を踏まえると、PM(プロジェクトマネジメント)の資格体系であるPMC、PMS、PMRについても、それぞれの役割や能力をどう深めていくべきか、整理する必要があるのではないでしょうか。プロジェクトマネジメントを極める道、プロジェクトマネージャーとしての能力を高める道、それぞれのキャリアの選択肢を明確にすることが重要だと考えます。

 

・私はIT系のプロジェクトについて詳しくはないのですが、さまざまな手法でプロジェクトを進めているのだと思います。私自身は、エンジニアリング会社で15年間、欧米の厳格なプロセスや手順に従いながらプロジェクトを進めてきました。その中で、マニュアルだけでなく、先輩方から学ぶことも多くありました。

 

そんな中、突然PMPの資格を取るように言われ、試験を受けることになりました。試験を通じて感じたのは、自分の会社の中で学んできたことだけでなく、P2MやPMP、PMBOKの体系的な知識が加わることで、物事が整理され、より明確に理解できるようになったということです。

 

これまで試行錯誤しながらもプロジェクトを進めてきましたが、資格を通じて頭の中の情報が整理されることには大きなメリットがあると感じました。P2MやPMBOKなど、それぞれの仕事によって適した手法は異なるかもしれませんが、標準的な方法論を学ぶことは非常に有意義だと思います。

 

・2025年をどのように過ごすかについて、私は2つの考えを持っています。

1つ目は、「もったいない精神」を大切にすることです。私は活動をまとめる役割を担う中で、横のつながり(部門間の連携)や縦のつながり(本部と支部の連携)を強化し、知識やノウハウを共有していくことが重要だと考えています。各地域が独立していた状況から、連携を深めることで、より大きな成果を生み出せるようになってきました。そうした知見を活かさずにいるのは「もったいない」と思うので、積極的に活用していきたいです。

 

2つ目は、「若手の育成と支援」です。私はこれまで多くの若手と接し、講師として人材育成に関わってきました。その中で、多くの人が悩みを抱えていることを実感しています。そこで、悩みを相談できる場を設け、支援することが大切だと考えています。組織の中には、未来志向で新しい挑戦をする人もいれば、現在の業務に悩みながら奮闘している人もいます。私自身の経験からも、そうした悩みを共有し、解決の手助けができる場を作っていきたいと思います。

 

さらに将来的な理想として、「PMの図書館」を作ることを考えています。佐賀県の武雄市には、近代的で整理された図書館があり、多くの人が訪れ、本を読みながらコーヒーを楽しむ空間があります。同じように、PMの知識やノウハウが整理された場所があれば、自然と人が集まり、学び合う場になるでしょう。これはすぐには実現できないかもしれませんが、そうした方向を目指していきたいと思います。

 

・私は現在、PMシンポジウムの実行委員長を務めています。今年、PMAJは創立20周年を迎えます。先ほど、PMAJの成り立ちについてお話がありましたが、2005年に統合され、今年2025年で20周年となります。

 

そこで、PMシンポジウムでは20周年記念の特別企画を予定しています。主に3つの取り組みを考えています。

1つ目は、PMAJの歴代理事長に集まっていただき、「PMAJの現在・過去・未来」をテーマに講演を行うことです。

2つ目は、展示コーナーでPMAJの20年の歴史を振り返る企画です。特にPMシンポジウムの歩みを中心に、これまでの取り組みを紹介します。

3つ目は、最終日の2日目に「20周年大同窓会」を開催することです。PMAJのPMシンポジウムはボランティアの皆さんによって支えられています。そこで、過去に参加したボランティアの方々や、PMシンポジウムに関わってきた職員の方々に集まっていただき、交流を深める場を設けたいと考えています。

今年のPMシンポジウムは、9月4日・5日の2日間にわたりライブ講演も予定しています。ご都合が合えば、ぜひご参加ください。

 

・今日はさまざまなご意見を伺い、とても興味深かったです。特に「30代への働きかけ」というアイデアが面白そうだと感じました。どのように実現できるか、少し考えてみます。SIGなら自由に活動できますし、新たにそうしたグループを立ち上げるのも一つの方法かもしれません。もし良いアイデアがあれば、ぜひ教えていただきたいです。いろいろなご意見を伺い、今年も始まったばかりですが、改めて感じるのは、私自身PMの中で育てられてきたということです。この組織をさらに発展させていくために、全力を尽くしていきたいと思います。何かご意見があれば、いつでもお寄せください。よろしくお願いします。

 

・本日は、さまざまなご意見をいただきました。それぞれが今年の抱負として語られたものだと感じながら拝聴しました。皆さんのご意見を何らかの形で反映できればと思っています。これらのご意見をもとに、良い一年にしていきたいと思います。 今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。以上

 


<注>

資料は改訂される可能性がありますのでご了承ください。