テーマ: 「革新的思考法による新ビジネス創出」
~デザイン思考やデック思考による新ビジネス創出の実践~
・・・ 佐藤 義男 (株式会社ピーエム・アラインメント 代表)
<発表資料>
<議論概要>
文責:岩下
<佐藤さん講話>
今日は、新しいビジネス創出を目指す革新的な思考法についてお話しします。デザイン思考やデック思考が中心ですが、アート思考やデック思考に反対する考え方も取り上げ、各思考法を比較しながら進めていきます。目的は、新たなビジネスを創出し、成長を推進することです。
ビジネスリーダーの3つの役割
ビジネスを支える「ビジネス・プロデューサー」、開発をスムーズに進める「スクラム・マスター」、そして目標達成を担う「プロジェクト・マネージャー」の役割についても説明します。
DX成功と新しいアプローチ
デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるために、変化するビジネス環境に対応した新しいアプローチを考えます。デザイン思考やデック思考といった革新的な発想法が、どのように新しいビジネスに役立つかを探ります。
ビジネス環境の変化とDXの重要性
DXの進展により、従来の約半分のプロジェクトが不要になると予測されており、技術的失業が課題となっています。ビジネス環境の変化に対応するためのリスキリングも重要です。
アジャイル開発とDXの統合
デザイン思考とアジャイル開発の統合は、迅速なプロジェクト進行に役立ちます。東京証券取引所のデザイン思考とアジャイル手法を用いて新サービスを創出した事例も紹介し、実際にどのような取り組みが行われているか解説します。
社会課題とDX
気候変動などの社会課題もDXの一部です。プラットフォーム型ビジネスは、企業が社会的課題に取り組むと同時に収益性を向上させることができる方法です。
ビジネスリーダーに求められるスキル
リーダーには新しいビジネスを創る能力、アジャイル開発、DX推進などのマルチスキルが求められます。これがなければ、企業は成長を続けられません。プロジェクトマネージャーも、QCD(品質、コスト、納期)に加え、DX推進と組織変革の役割を担うようになりました。
技術革新と未来
AI技術の進化で、10年以内に汎用AIが登場し、社会への影響が増すと予測されています。アメリカでは約2/3の仕事がAIの影響を受け、日本もその影響は避けられません。こうした変化に対応するため、企業は技術革新とDXを進め、ビジネスプロデューサーが変革を促進する役割を果たします。
リーダーシップの在り方
新しいビジネス創出には「思いやり型」のリーダーシップが求められます。組織を変革し、メンバーの価値観を調和させる力が、プロジェクト成功の鍵となります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるための3つの鍵について解説します。
・本質の理解:
DXの本質は単なるデジタル化ではなく、ビジネス全体の変革です。組織が根本から変わることが求められています。
・組織のアジリティ向上:
DXでは素早い対応が重要です。アジャイル開発など、柔軟に対応できる組織文化の育成が成功の鍵です。
・リーダーと人材の育成:
DXを推進するためには、新しい技術や思考に精通したリーダーやマルチスキルを持つ人材の育成が不可欠です。
これらの要素が整うことで、DXの成功に近づけます。さらに、失敗から学び、全社的な意識を変革することも重要です。この持続的な成長を支える仕組みが必要です。
続いて、新しい価値創出を目指した「ビジネス・イノベーション」について解説します。ここではさまざまな方法論を活用しています。まず、「デック思考」と「デザイン思考」を用いることで、課題を抽出し、本質的な問題点を見極めます。これにより、課題解決に向けた新しいアイデアを生み出すことが可能です。
次に、「ビジネスモデル・ジェネレーション」は、企業が新たなビジネスモデルを構築する際に用いるフレームワークです。ビジネスモデルキャンバスを使って企業の仕組みを視覚化し、検証を行います。
また、「リーン・スタートアップ」は、ビジネスモデル検証後、迅速に新規事業を立ち上げるためのマネジメント手法です。迅速に仮説を検証し、無駄のない方法でビジネスを進めることを目指します。「リーン」という言葉は、1980年代に日本の製造業の効率的生産を参考に発展した考え方です。
さらに、アジャイル開発も紹介します。アジャイル開発はビジネスイノベーションを進めるために有効な手法です。このプロセスでは、デザイン思考やデック思考を用いて新しいアイデアを抽出し、実際に試すことで効果を確認します。
P2Mにおけるデザイン思考とアジャイル開発の統合が重要です。IT業界では要件定義からプロジェクトライフサイクルが始まりますが、現在の状況を踏まえるとこの統合が特に必要です。プログラムライフサイクルはプロジェクトの初期から保守までを支え、企業の目標達成を助ける役割を果たします。
PMAJの部会でもP2Mの普及と活用について議論していますが、デザイン思考とアジャイル開発の連携に関する理解が進んでいない現状があります。この点を改善しなければ、成果を出すことは難しいでしょう。
1.DXの本質について:
DX(デジタルトランスフォーメーション)について質問すると、「ITのことですか?」と答えられることが少なくありません。しかし、DXは単なるITの活用ではなく、ビジネス全体を変革するものです。経済産業省もDXの本質を「新しい価値を創出すること」としています。
DX推進の目的
日本では、DXの推進目的として新規事業の創出よりも、既存業務のプロセス自動化が重視されています。これは小さなイノベーションには繋がりますが、大規模なイノベーションは生まれにくくなります。日本企業はコスト削減や持続的なイノベーションには強いものの、組織変革に対する取り組みは遅れがちです。
DXに対する期待
日本のユーザー協会やITベンダーにDXの期待を尋ねると、多くが既存事業のコスト削減を目指しており、新しい事業やビジネスモデルの革新に対する関心は少ないことが分かります。現状では、依然としてコスト削減が中心となっています。
2.組織のアジリティ向上 :
「組織アジリティDNA」は、部門や役割を越えて共同で革新を目指すチーム作りを指します。環境変化に強い組織を構築するには、事実に基づくコミュニケーションが欠かせません。アメリカのプロジェクトマネジメントは指揮・命令型が多い一方で、日本は自律・協調型のスタイルを取っており、チームの協力がプロジェクト成功の基本となります。
3.リーダーシップと組織の取り組み :
DX推進には、経営トップのリーダーシップと組織全体での横断的な取り組みが不可欠です。多くの経営トップがDXやビジネスイノベーションの重要性を理解しつつも、実行には困難が伴います。トップのリーダーシップと組織全体の協力体制が成功に向けて重要です。
組織全体でのデジタル改革について
ある会社では、デジタル改革を推進するため、各事業部にチーフデジタルオフィサー(CDO)を配置し、情報システム本部にもCDOを設けて事業部間の連携を強化しています。これを「全社横断のDX推進措置」と呼んでいます。
DX推進のためのアプローチ
1つ目のアプローチは、デジタル化を通じて企業の基盤を変え、DXを企業のDNAとして根付かせることです。DXは一過性の取り組みではなく、企業全体のビジネスモデルに深く根差すことが重要です。
2つ目は、DXを持続させるためのビジネスの俊敏性です。この俊敏性を「アジリティ文化」と呼び、お客様を中心にしたイノベーションを育むことが鍵です。顧客が主役である姿勢が重要です。
変化に適応する組織づくり
変化に対応し、失敗から学べる環境をつくることも不可欠です。全社員が共通の目的を持つことで、組織はより機敏に動くことができます。こうした俊敏性を持つ組織は「組織アジリティのDNA」を持っていると言え、DXを永続的に実現できる土壌が整います。
成功事例とその取り組み
ある企業では、組織文化の改革を全社的に行い、経営陣が「変わろう」というマインドセットを全社員と共有しました。この取り組みはグローバル展開にもつながり、ヨーロッパをはじめとする各地域で、社員全員を対象とした調査を実施しました。取締役の一人が中心となって活動をリードし、アメリカや台湾などの地域でもポジティブな競争意識を持つカジュアルで前向きな活動が行われています。この会社ではM&Aを積極的に行い、優秀な人材を確保しています。トヨタも人材を「財」として大切にしていますが、組織文化の向上と人材確保の相乗効果が成功の鍵となっています。
このような取り組みから、組織のアジリティ向上には人材が重要な要素であることが分かります。また、プロジェクトマネジメント(PM)の専門家が関わることも、DX成功のカギとなるでしょう。
プロジェクトマネジメントが成功するためには、技術的スキル、人間関係スキル、戦略的ビジネススキルの3つが重要です。特に最近では、人間関係スキルが最も重要視されるようになりました。
以前は、これら3つのスキルがバランス良く重要だと言われていましたが、最近のPMシンポムジウ北米大会(PMI)では人間関係スキルの重要性が特に強調されています。日本では技術重視の傾向が強いですが、実際のプロジェクトマネジメントにおいては人間関係スキルがカギとなりますので、注意が必要です。
DX時代に求められる人材育成について考えます。
ユーザー協会のレポートによれば、DXにおける最大の課題は人材やスキルの不足です。この問題にどう対処するかが重要です。
まず、キャリアデザインを考えてみましょう。例えば、課長と3年目の社員が今後のキャリアを話し合い、どのような役割を目指すかを明確にすることが重要です。プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーになるための道筋を描くことが求められます。
また、組織としても次世代人材の育成に責任を持つ必要があります。先進的なデジタル技術を活用できる人材を育成するための政策が求められています。DX時代には、戦略を実行できる人材が必要で、そのためのスキルを身につけることが重要です。
従来の仕事の進め方だけでは不十分で、現場でのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だけでは対応できなくなっています。新しい職務に必要なスキルを習得するための職業能力開発が必要です。特に20代や30代の若手社員は、リスキリングプログラムが受けられなければ企業を離れる可能性があります。
日本政府はリスキリングを推進し、意識改革を進めています。
首相が出席するヒューマンリソースに関するセミナーが開催されていますが、実際の進展はあまり見られません。
リスキリングを受けた40代や50代の人々の間で転職が増加しています。
中堅層が新たなスキルを習得し、他の職場に移るケースが目立っています。リスキリングは職業能力の開発を促し、社員が新しい市場ニーズに応じたスキルを身につける手段となっています。また、技術的失業にも対応できる重要な方法です。
企業や政府が取り組むリスキリングは非常に重要です。。
まず、日本は人手不足の問題を抱え、コストパフォーマンスを向上させる必要があります。また、成長機会を重視する動きも見られます。特に40代や50代の人々が増えてきており、彼らが何を学び、どれだけの報酬を得られるかが重要視されています。若手社員も、企業の人材投資に対して関心を持つようになっています。リスキリングには新しいスキルの獲得が含まれ、組織全体での取り組みが不可欠です。企業のトップと中堅が連携し、社員の成長を支える必要があります。
私自身の経験として、28歳のときにリスキリングを行ったことがありますが、その際は経営層と社員の連携がほとんどありませんでした。例えば、私は6ヶ月間の休暇を取り、アメリカでコンピューター工学を学びたいと思いましたが、上司からはそのような制度はないと言われました。そこで、私は日本国内での6ヶ月の研修ができないかと考え、IBMやユニシスでの研修を組み合わせて、早稲田大学の社会人向けプログラムに参加しました。すると、上司はその費用を負担してくれると言いました。今後も企業のトップと中堅が高い目標を掲げ、社員を支援する姿勢が必要だと思います。
3.革新的アイデアを得る思考法
ここから本題に入ります。私は課題解決型の思考法を「デザイン思考」と呼び、新事業創出型の思考法を「デック思考」と呼んでいます。この思考法は、単なる発想ではなく、総合的なデザインを通じて問題解決を目指すものです。
私たちの会社はデザイン思考とプロジェクトマネジメントを支援する専門企業です。デザイン思考は数年前から実施しており、これら二つの思考法を比較し、皆さんがどのように活用できるかを学んでほしいと思っています。
最初はデザイン思考とデック思考を簡潔に説明しようと思いましたが、部下から「デザイン思考の本質を理解してもらう必要がある」との意見があり、内容を充実させることにしました。後で詳しい資料をお届けします。
デザイン思考とは、創造的な問題解決の思考法です。この手法の中心にあるのは「人間中心アプローチ」で、これは私たちの会社の根幹を成しています。数年前から、私たちはユーザーエクスペリエンスやカスタマーエクスペリエンスをデザインマネジメントの重要な要素として位置付けています。
なぜ今デザイン思考が広まっているのでしょうか。それは、5年ほど前にIBMが「全員がデザイン思考の研修を受けるべきだ」と指示したことがきっかけです。最近では、日立製作所も全社員にデザイン思考の研修を実施しています。私の部下は、ある外国企業でデザイン思考を全社的に導入するプロジェクトに参加しています。
デザイン思考は、人間中心のアプローチを採用し、真の課題を見つけ出し、その解決策を導き出す思考法です。このアプローチは、重要な課題を中心に考え、解決策を見出すための方法です。すべてを人間を中心に考えることから始まります。
人間中心アプローチは、デザイン思考の基本的な概念の一つです。単なる顧客の視点ではなく、無意識のレベルで深く対象に入り込むことが重要です。このため、デザイン思考は使いやすく、さまざまな業界で利用されています。製造業や生命保険業界でもこの手法が取り入れられています。
デザイン思考の目的は、単に製品を作ることだけではありません。例えば、シリコンバレーのIDEOが開発した、Macのマウスような製品だけでなく、それに関連するサービスや事業全体を支援することも含まれます。デザイン思考は、さまざまな問題に適用できることが重要です。
デザイン思考にはいくつかの流派がありますが、有名なものとしてアメリカのデザインコンサルタント会社IDEOがあります。ここで、兄弟の一人がスタンフォード大学で教えており、その影響でスタンフォード大学にはデザイン思考の講座が設けられました。この流れにより、慶應大学や東京大学などでも独自のプロセスが作られ、実施されています。
デザイン思考が特に有効に機能するのは、サービスデザインなどの分野においてです。例えば、横浜市役所では、デザイン思考に基づくサービスデザインが利用されています。これにより、交通や介護などの分野で市民に役立つサービスを提供しています。社会課題の解決やビジネスモデルの再構築にも力を入れています。「人間中心」とは何かを考えることが重要です。顧客の立場で考え、本質的な課題を捉える能力を持った人材が求められています。
独創的な発想ができ、競争相手が気づいていないアイデアを提案できる人が今、必要とされています。デジタル変革(DX)の時代において、デザイン思考は欠かせない要素です。具体的にデザイン思考をどのように活用していくのか、お話しします。
「101デザインメソッド」には4つのステップがあります:調査、分析、統合、実現です。また、7つのモードもあります。まずは「目的を明確にする」ことが重要です。その後、「インサイトをまとめる」作業を進めていきます。これら7つのステップを経ることで、最終的な成果物が出来上がります。これは、潜在的なニーズを引き出し、解決策のアイデアを具体的に抽出するための方法です。
目標は、これまでにない新しいものを作り出すことです。そのために、「エスノグラフィー(フィールドワーク)」という手法を使って人々の行動を観察します。次に、特定の課題を持つ架空の「ペルソナ(人物像)」を設定します。これにより、どのような人がどのような問題を抱えているのかを明確にできます。
その後、顧客のニーズを分析し、議論を通じて合意を得ます。このプロセスを通じて、顧客のインサイトを深め、解決策のアイデアを探ります。
具体的なデザイン思考のプロセスには、以下のステップがあります。
・観察(オブザベーション) - 人々の行動を観察します。
・総合(シンセシス) - 観察した情報を整理し、全体像を把握します。
・試作(プロトタイピング) - アイデアを形にして試します。
この流れは往復することが重要で、発散と収束を繰り返します。また、思考の過程では右脳を活用することも大切です。デザイン思考は、情報を整理しながらアイデアを発展させる手法です。このように、様々なアプローチを通じて具体的な解決策を導き出していきます。
デック思考についてお話しします。
デック思考は、川勝さんによって創造されたもので、「夢工学」に基づいており、アイデアの生成から計画、開発、実現、運営、そして成功に至るまでの全プロセスを考えるための思考法です。
デック思考のポイントは、自由な発想を重視することです。夢を持つ人は素晴らしいアイデアを生むことができるという信念に基づいています。この思考法の本質は、仮想や空想、さらには狂想を通じて感性を活かすことにあります。特に右脳を活用することが重要で、これがデック思考の革新性の鍵となっています。
デック思考は、小さなイノベーションだけでなく、大きなイノベーションを生む可能性も秘めています。特に新しい事業を創出するプロジェクトやベンチャー企業に適した方法です。
この思考法では、個人の発想とグループでの発想を行き来することが重要です。まずは個人がアイデアを出し、その後にグループで議論を加えることで、新しいアイデアが生まれやすくなります。繰り返し行うことで、効率的に多くのアイデアを創出できるのです。発想を促進するためには、具体的な複数のステップを踏むことが求められます。
デザイン思考は、顧客のニーズを中心に据えた課題解決のアプローチです。マーケティングでは、消費者の意識や行動を深く理解し、彼らが気づいていないニーズを見抜くことが重要です。これによりインサイトを生成し、顧客ニーズに応じた製品の開発や販売を行います。このアプローチは「マーケットイン」と呼ばれます。
デザインドリブンイノベーション(DDI)の特徴は、製品やサービスの「意味」に注目することです。社会で共有されている意味に新しい理由を提案し、製品やサービスに新たな意味を与えることが重要です。これにより、顧客やユーザーの価値観やライフサイクルが一変する可能性があります。例えば、アメリカのGE社が開発したMRIは、当初は80%の子供が鎮静剤を必要としていましたが、デザインドリブンイノベーションの結果、鎮静剤を必要とする子供が1割に減少しました。
アート思考はデザイン思考を批判する形で生まれ、解決思考ではなく「問い思考」を重視するのが特徴です。これは、可能性を追求する手法です。企業が得意な製品を開発・販売する際は「プロダクトアウト」と呼ばれますが、アート思考はこのプロセスとは異なる視点を提供します。アート思考は感性と直感に基づき、望む未来を描くことを重視します。具体的な例として、マツダの車のデザイン戦略があります。マツダは消費者のニーズに応えるだけでなく、感性を重視し、未来の姿を描くことの重要性を強調しています。顧客の声に頼らず市場を観察しながら新しいデザインを追求しています。マツダのデザイン戦略は日本の美意識を取り入れつつ、海外の若者たちからも高く評価されています。マツダの車が若者に受け入れられたのは、その独自のデザインアプローチのおかげです。
「ビジネス創出」についてお話しします。
例として、PMAJのSIGで議論した、デック思考による「オートエコレジャーパーク」のj事例を紹介します。このプロジェクトは、デック思考とプログラムマネジメントプロセスの統合の例です。私たちは、本物のテーマパークと同じ仕組みを作ることを考えました。
アイデアの創出について具体的にお話しします。
夢が実現した状況を絵やインターネットの写真でまとめ、グループ思考を行いました。当初はエコ商品をテーマにしたエコパークのアイデアでしたが、他のアイデアも追加しました。ここで重要なのは連想です。私たちは数人のメンバーで連想を通じてビジネスイノベーションを追求しました。連想法は優れた発想法であり、多くのアイデアを出すことができました。
「アジャイル開発」についてお話しします。
アジャイル開発の起源について、驚いたことがあります。アジャイル開発の発祥地を尋ねたところ、シリコンバレーと答えられました。実際には、アジャイル開発は日本で生まれ、アメリカで育った後、ブーメランのように日本に戻ってきたというのが真実です。
日本の1980年代におけるトヨタ生産方式と新製品開発に関する考え方が注目されました。特に、チーム手法としての「スクラム」が重要なポイントとして挙げられています。米国の製造業はトヨタの生産方式を参考にし、MITなどの専門家がこれを視察し、「lean」と命名しました。無駄が無いことを意味し、効率性を強調しています。
また、米国のソフトウェア業界はトヨタ生産方式(TPS)から学び、アジャイル開発と呼ばれる手法を確立しました。この時、スクラムやエクストリームプログラミングなどの方法が採用されましたが、アジャイル開発はこれらの方法を組み合わせた新しいアプローチとして発展しました。
2016年には、米国のPMIの北米大会に参加し、アジャイルに関する講演を聞きました。その中で、「看板」と呼ばれる管理手法が再び注目されていることを認識しました。改善には「カイゼン」「改善」「KAIZEN」という言葉が使われ、英語では「継続的改善(continuous improvement)」を意味します。
アジャイル開発は、日本で生まれ、アメリカで成長し、再び日本に戻ってきましたが、実際に日本での導入は進んでいない現状が指摘されました。アメリカでは96%の企業がアジャイルを導入している一方で、日本ではわずか42%の企業しか取り入れていないため、その普及の難しさが強調されました。P2M(プロジェクト・プログラム・マネジメント)についても、普及が進まない理由がアジャイル開発と似ています。
トヨタ生産方式(TPS)は、無駄を徹底的に排除する考え方に基づいています。TPSの基本理念は、必要な時に必要なものを必要な量だけ用意する「ジャストインタイム」の考え方です。この考え方を学ぶことで、問題の見える化が進み、不良品が次の工程に流れないようにする意識が高まります。
TPSの目標は、理想の状態に近づくことです。その本質は、人材の育成と活用にあります。トヨタのプロジェクトには、チーフエグゼクティブとその下のチーフエンジニア、プロジェクトチームのメンバー間での密なコミュニケーションが含まれています。全員が同じ価値観を共有し、現場から経営トップまで一貫したマインドセットを持つことが重要です。
TPSは、経営システムとしてのコスト削減を目指しています。経営者の信念とTPSの導入が、システムとしての成功を支える重要な要素です。人の能力を引き出し、設備を効率的に活用することで、生産性を向上させます。無駄の排除もTPSの大切な要素です。
TPSの基本手法は「ジャストインタイム」と「自働化」です。ジャストインタイムでは、必要な時に必要な量だけ部品が供給され、在庫を最小限にします。一方、自働化では、不良品を次工程に流さない意識と、継続的な改善への姿勢が求められます。TPSの本質は「継続的な改善」にあり、業務の質を向上させるための重要な取り組みです。
今年6月には自動車メーカ5社が型式認定の問題に直面しました。このような状況により、日本の製造業に対する信頼が危機に瀕しているのではないかと心配しています。どうして日本のものづくり企業が改善マインドを捨ててしまったのか、ここに問題があると思います。
なぜ日本企業はトヨタ生産方式(TPS)から得た改善マインドを捨ててしまったのか、これは重要な問いです。改善のためには、顧客中心のイノベーションを推進し、変化に適応して失敗から学ぶ環境を整える必要があります。共通の目的を持つことで、これを実現することが重要です。
現在、アメリカの企業はTPSを学び、活用しています。AmazonやMicrosoftなど、多くの企業が日本の生産方式を取り入れています。あるYouTube動画では、Amazonの副社長が「Amazonはトヨタに学び、世界の勝ち組になった。日本は海外に学び、負け組になった」と語っていました。
日本でも改善の問題を明確にし、取り組む必要があります。また、アジャイル開発の普及率は42%と低いですが、これを改善するために何が必要かを考える必要があります。アジャイル開発は、ジャストインタイムや組織の柔軟性を重視したものであり、顧客の満足を追求するために必要です。
経営トップはこの価値を理解し、組織文化を醸成することが重要です。また、組織の壁を超えた横断的な連携が求められます。中間管理職は、DXに向けたシステムの構築やビジネス環境への対応が大切です。現場では、共通認識を持ち、基盤を理解するための教育が必要です。アジャイル開発には教育が不可欠であり、システム開発においても教育が必要です。アジャイルの原則を理解し、特に顧客の最優先という考え方を重視することが重要です。
アジャイル手法が効果を発揮するのは、要件が不確定なシステム開発の場面です。しかし、工場の保守運用、調達、営業、経理などの定型業務には向いていません。アジャイル開発は万能ではないことが、PMBOKガイドにも記されています。このように、アジャイルが適している領域と適していない領域を理解してほしいと思います。
次に、従来型アプローチにおける概念実証(POC)の役割についてですが、これは必ずしも全てのケースに当てはまるわけではありません。デザイン思考とアジャイル開発については、P2M改定4版に記載されています。しかし、アジャイルのプロジェクトマネジメントとデザイン思考がどのように活用されるかについては、今後のP2M改定4版への追加アプローチが必要です。
デザイン思考とアジャイル開発の統合は、組織変革を成功させるために重要です。統合のメリットは、メンバーがイノベーションを生み出す意欲を持ち、実際にそれを実現する場を提供することです。デザイン思考の柱は、課題に対する解決策のアイデアを生み出し、アジャイル開発が新たなビジネス創出を促進することにあります。DX時代には、源流上流でのビジネスモデルや業務プロセスの検討が重要であり、P2Mのスキームモデルを理解することが求められます。
私たちが作る製品ビジョンやビジネスモデルには、ユーザーストーリー(機能)が大切です。具体的には、どのような機能を持たせるかを考え、それを元に開発を進めます。もし機能に問題があれば、ユーザーストーリーに戻って確認し、さらに改善を試みます。それでも解決しない場合は、デザイン思考で、早期に問題を発見することを目指します。また、顧客体験を整理することも重要です。このプロセスを通じて、インサイトをまとめ、より良いサービスを提供するための演習例を示します。
「革新的モビリティサービス」の提案は、実際のプロジェクトチームでも活用されています。チームの士気を高めるために、「デザイン思考」の人間中心のプロセスを使っています。またグループ発想の訓練「デック思考」を取り入れています。この訓練は、毎年行われており、1週間の間に人間系のスキルを強化する内容です。具体的には、DXを支えるための創造力や自己実践力を育むコースです。
これら演習例では、DX時代のプロジェクトプログラムマネジメントの実践について検証を行います。チームをグループに分けてアイデアを出し合います。この活動では、行き詰まりを打破し、思考を活性化させることを目的としています。最後には、各チームの成果を発表してもらいます。
以上
<質疑>
・デザイン思考については、もともとトヨタが考案した方法であり、それをアメリカが学んで形にしたという背景があります。私がスタンフォードでデザイン思考を学んでいた際「日本から学びに来たのはなぜか」と聞かれ、逆輸入のような感覚を持ちました。これは、日本が本来持っている良いものを捨ててしまっているのではないかという疑問につながります。
・特にアメリカのものに憧れるあまり、日本独自の価値を軽視しているのかもしれません。日本の良さを再認識し、それを活かしていく必要があると思います。P2Mも、日本が考えた考え方です。PMBOKには含まれていない、戦略的な視点を持った理論です。
日本人は、自分たちがやってきたことを体系化し、理論化していく必要があります。これまでの経験や暗黙知に頼るのではなく、書き起こして明文化することが重要だと感じました。
・「デック思考」とは、「夢工学式発想法」を指しています。この「デック思考」と名付けてくださったのは佐藤さんです。この名前に変更された結果、「夢工学式発想法」に関する講演や経営コンサルティングの依頼が急増しました。この場を借りて、お礼を申し上げます。
・潜在ニーズ(潜在意識)を表現することはとても難しいと思います。外部の人にわかるように表現すること、自分でも表現できるのか、自分は潜在ニーズを所有しているのかということさえわからないことがあるからです。模型で表現できる段階は、潜在ニーズを遙かに超えた段階だと私は考えます。
・個人思考とグループ思考では、アイデアをどのように表現すべきでしょうか。言葉や絵、ジェスチャーなど、具体的にどの手段を使えばよいのでしょうか。
⇒アイデアを表現する際は、言葉に加え、絵や模型も使います。動く模型を作ることもあります。これらの方法だけでなく、さまざまな手段で相手に伝えようとし、伝わらない場合は異なるアプローチを試します。
デック思考の作業はこうした試行を重ねて進めていきます。簡単な模型を作るにはそれほど時間はかかりません。時間や費用をかける場合もありますが、重要なのはアイデアを具現化する表現方法です。ユニバーサルスタジオツアーやジョイポリスの制作では、何千もの模型を用いてアイデアを試し、具現化しました。確かに労力がかかりますが、重要なのは相手に意図を伝えることです。(川勝さん)
・事前に資料を拝見しましたが、実際に講義を聞くと理解の深さが異なると感じました。途中参加でしたが、とても有意義で、参加できて本当に良かったです。
・プロジェクトマネジメントが研究には向いていないと言われることがよくあります。研究部門からは反発もありました。研究では計画やリソース管理といったプロジェクトマネジメントの手法が適さないという意見です。しかし、研究レポートの作成時には、目次を作成するなど計画的な進行も可能だと思います。
・今日の講義を通じて、アジャイルプロジェクトマネジメントについて改めて考えました。従来のウォーターフォール型や予定調和型の手法に対して、アジャイルが注目されています。もしかすると、研究開発もアジャイル型で進めるのが適しているのではないでしょうか。
次々と新しい発見が生まれる研究の特性は、アジャイルのアプローチに合っているかもしれません。過去には、ウォーターフォール型が研究に向いていないと言われていたのも理解できます。
・これからの時代における価値創造についてのお話は、とても勉強になりました。全体を見渡しながら、どのように進めていくべきか、必要なプロセスや要素について詳しく教えていただき、参考になりました。
・「日本で生まれ、アメリカで育ち、ブーメランのように日本に戻ってくる」というのが印象的でした。このことについて次のようなことを思いました
①日本が日本生まれのものについて価値を見いだせない。(見いだす眼を持っていない)
②アメリカは「言語化」が得意。そして、言語化の過程で、日本生まれのものの欠点を排除し、洗練化していくことができる。こういったことを考えたのですが、いかがでしょうか?
・日本の独自のコンセプトがアメリカで言語化され、それが再び日本に戻ってきた結果、海外の手法を取り込むことで日本が「負け組」になってしまったという話が印象に残りました。これを受けて、トヨタ生産方式が誕生する前の日本の製造業がどのような状況にあり、どのように物づくりを行っていたのかを再度見直す必要があると感じます。
これからは、新しい日本的な発想が求められています。例えば、デック思考や夢工学のような新しい考え方がその一例かもしれません。私たちが日常的に考える基盤をしっかりと持たなければ、どれだけ論理的なフレームワークを導入しても、それが日本の風土に馴染まない限り、成果には結びつかないのではないかと考えます。本日の発表を通じて、そのような思いを強くしました。
以上
<注>
資料は改訂される可能性がありますのでご了承ください。