「第2回Project SE懇談会」-2024/10/02
テーマ:「ビジネスを駆動するプロジェクトマネージャにとってのシステムズエンジニアリング」
~Project Systems Engineering (Project-SE)~
・・・ 佐藤 健司 (三菱プレシジョン株式会社)
https://www.pmaj.or.jp/p2m/seminar/p2mclub/202458.html
プロジェクトは、その複雑さと境界の曖昧さによって成功の不確実性が増す中、新しいプラットフォームを活用した革新的なイノベーションによって、業界の地図が大きく塗り替えられてきています。また、多様な技術領域が交錯する中、これまでの画一的な取り組みではプロジェクトの成功を収めることがますます難しくなっています。こうした状況下で革新的なビジネスモデルを実現し、企業の成長をリードするためには、既存の安全領域から飛び出し、日々挑戦と成長を目指す人材が欠かせません。
今回、システムズエンジニアリングの知識を駆使し、プロジェクトマネジメントの最前線で活躍するビジネスドライバーとなる人材の育成についての課題と解決策について探り、皆さまと議論できればと考えております。
(Agenda)
第二部 システムズエンジニアリング
・その意味
・駆動する力
・規範的な力
・ディシプリン
・適用の滞り
・コンテクストの理解
・その意思決定
<事前配布資料:更新版> by佐藤さん
<佐藤さん講話内容>
ノート形式で、<講話内容>が記述されています
<質疑内容>
後半のフリーディスカッション内容が再現されています 文責:岩下
【メンバー】
佐藤さんのお話は非常に心に響く部分が多く、こういうことをしっかり考えられてきた方がいたのだと感銘を受けました。また、こういう視点で見ると新しい発見があるということも多く、非常に興味深く感じました。
私自身、システム理論をしっかり勉強してこなかったため、最近になって「システムとは何か」という初歩的な本を読みました。その中に、「システムは境界を持ち、その中をどう扱うかが主な課題になる」と書かれていました。システムの外にある環境については漠然とした理解しか持っていなかったのです。
環境とは実は全てのシステムが繋がっていて、自分たちがコントロールできない部分や細かく考える必要のない要素を「ブラ
ックボックス化」して扱うという概念があることに気づかされました。
これにより、環境が変わればシステムにも影響が出るし、逆にシステムの変化が環境にも影響を与えるが、それを完全にはコ
ントロールできないということを理解しました。これはある意味、整理しやすく、全体像を捉える上で非常に有用な考え方です。
コンピューターシステムの内部構造については完全に理解しているわけではなく、インプットとアウトプットを通じて、そのシステムがどう動くかを推測しています。自動車の制御も同様で、センサーや制御ユニットを使いながら、専門家に任せたり、部品を購入したりしてシステムを構築しています。
しかし、最近では環境やシステムの構成要素が急速に変化しており、その変化に追いつかないことが問題になってきています。
こうしたブラックボックス化された要素をどのように扱うべきかが、今後ますます重要になると感じています。
【佐藤】
環境など自分でコントロールできないものについて、何が自分の手の届かないところにあるのかを正確に理解することが大切
です。そうすることで、内と外の境界線が明確になり、自分が把握していない部分が何なのかを定義することが重要になります。特に、環境や他者に任せざるを得ない領域においては、自分のコントロールできない要素についての理解が必要です。
【メンバー】
もう一つは、目的と目標をどう区別するかという話があり、私もよく議論するテーマです。目的が異なる人たちが、目標が同じ
だからという理由で協力しようとすることがあります。このような関係を「野合」と呼ぶことがあります。つまり、目標が同じでも目的が違うので、表面的には集まっているだけで、深いところまで話が進むと協力関係が崩れてしまうということです。
特に最近では、目標を数値化し、 「見える化」することが重視され、目標達成の手段にフォーカスする傾向があります。確かに、目標を達成するための手段を考えるのは重要ですが、目的というのは、単なる手段や目標とは異なり、もっと大きな視点での「ベクトルの方向性」のようなものだと考えています。それは絶対値のような具体的なものではなく、高い抽象度を持つものです。そのため、目先の目標がどんなに合っていたとしても、最終的にはどこかでズレが生じる可能性があります。これが、私が抱えている懸念です。
【佐藤】
目的、目標、手段についての話ですが、目的は最終的なゴールを示し、それに向かってどのようなベクトルで進むかが大切です。そのゴールに到達するためには、中間的な目標を設定し、それを達成するための具体的な手段(戦術)を考え、戦略的に進める必要があります。これにより、より高い目的に近づくことができます。
企業には哲学的・理念的な目的があり、これを基に目標を設定することが重要です。例えば、TOC(制約理論)の「ゴール 2」
という本では、目標を設定する際に「生き残るため」「マーケットを満足させ続けるため」「社員を幸福にするため」という 3 つの条件を同時に達成することが求められています。
この理念に基づいた目標を定め、それを達成するための手段を定義するフレームワークが非常に重要だと考えています。
【メンバー】
目的に関して言えば、最近では「ゴール」や「パーパス」など、さまざまな言葉が使われています。しかし、基本的に言いたいことは変わりません。つまり、理念や企業の存在意義について考えるべきなのです。なぜその会社を立ち上げたのか、何のためにその事業をしているのか、という根本的な問いです。
私自身も会社を立ち上げる際に、すごく悩みました。「自分はこれをやる意味があるのか?」「何のためにやっているのか?」と。最初に「初年度の売上目標はいくらか?」といった話をしてしまうと、それがゴールのように感じられてしまいます。しかし、売上はあくまでターゲットであって、目的ではありません。売上が目的となってしまうと、「何をしてでも売上を上げればいいのか?」という考えに至ってしまいますが、それは違います。
重要なのは、自分にしかできないこと、自分だからこそできること、そしてそれがどのように世の中に貢献するのか、という点
です。そうした視点がなければ、企業の存在意義自体が揺らいでしまいます。また、社会に役立つこと、社員の幸福、株主への還元、納税など、そうした要素も企業の目的にしっかり組み込まれていなければなりません。
これらを無視して、税金がかからない国に拠点を移し、世界一の売上を誇るような企業があったとしても、それで良いのか? という疑問が湧きます。これは哲学的な問題とも言えますが、その哲学が今後ますます問われる世の中になるのではないかと思います。最近の消費者も、そうした企業の姿勢を重視して商品やサービスを選ぶようになってきています。「ゴール」「ビジョン」「ターゲット」などの違いをしっかりと理解し、手段と目的を混同しないことが大切です。
【佐藤】
企業の哲学として、例えば、かつてのシャープには「驚きのあるもの」を作ることに専念していた時代がありました。しかし、シャープが衰退した時期というのは、その「驚き」を生み出すことをやめてしまったからだと感じます。液晶ディスプレイの亀山モデルなど、品質が高い製品を作っていたことは間違いないのですが、そこに新たな驚きを提供する革新性がなくなってしまい、その分野に過度に依存してしまったのだと思います。
シャープの真の強みは、「目のつけどころがシャープ」というフレーズが示すように、独自の視点やアイデアで驚きを提供する力だったのではないでしょうか。その姿こそが、美しい企業像だったのでは、と考えます。もちろん、市場で生き残るのは非常に難しいことでもあると思いますが。
【メンバー】
業務やターゲットを明確にすると、逆に縛りができてしまうことがあります。それを達成しようとする過程で、何が本当に重
要かを議論する時間さえなくなり、議論自体が「余計なこと」とみなされることもあります。
かつてのホンダは、トヨタのように「なぜ」を 5 回繰り返すのではなく、納得するまで「なぜ」を問い続けました。そして、納得したら驚異的なスピードで物事が進むようになり、個々の意思疎通がほとんど不要で、自然とチーム全体で動く状況がありま
した。抽象化をやっていることもこれと同じです。根本的な目的が明確であれば、現場で瞬時に判断ができ、基準に合うかどうかを一々確認する必要がありません。
「5 回考えろ」というのも、回数を重ねること自体が目的ではなく、最終的に目的に合うかどうかをしっかり見極めるための手
段です。目的が明確であれば、方法に多様性があっても問題ありません。広い視野で学び、協力し合うことで、以前は不可能だと思っていたことも達成できるかもしれません。
最終的には、人間の可能性を信じ、それを最大限に引き出すことが重要です。人間尊重という言葉は誤解されやすいですが、本来は人間の持つ無限の可能性を活かすことが重要です。これにより、自分らしさを発揮し、集中しやすくなります。時代と共に目標は変わっていきますが、根本的な目的さえしっかりしていれば問題はないという考えに、最近やっと理解が深まってきたように感じます。
【佐藤】
100 年企業(老舗企業)の本質について考えたことがあります。老舗企業の本質とは、自分自身の強みを理解することだと思います。なぜ、自分たちは長い間生き残れたのか。その根底にあるのは「足るを知る」という考え方が重要だと感じます。無理に余計なことに手を出さず、究極の姿、つまり本当に追い求めるべき目的に集中することで、真の企業としての在り方が見えてくるのではないでしょうか。
日本は、SDGs において「遅れている」とよく言われますが、実際には、世界で最も長寿命企業を持つ国です。そのような背景を見つめ直すと、日本独自の SDGs のアプローチや、これからどう生き残っていくかという答えが見えてくるのではないかと、最近感じています。
【メンバー】
システムズエンジニアリングが、今の DX時代にどのような領域で活用されるのか、特に注目すべき領域がどこなのかという点
に興味があります。この概念はもともと航空宇宙分野で発展してきたもので、長年蓄積された知識や経験があります。しかし、DX 時代においては、どの分野で特に重要な役割を果たすのかという疑問です。
【佐藤】
システムズエンジニアリングが最も期待されるのは、DX が遅れている分野だと思います。例えば、東京大学では 2022 年に 「海事デジタルエンジニアリング」社会連携講座が立ち上げられ、その中で海洋分野、特に造船の世界でモデルベースドシステムズエンジニアリングを導入する動きが見られます。
また、モビリティの世界、マーズ (Maas Mobility as a Service)と呼ばれる未来の交通インフラの分野でも、この技術の活用が活発に求められています。これらの分野は非常に複雑で、システムズエンジニアリングのアプローチが必要とされています。
他にもシステムズエンジニアリングのキーパーソンがどこで活躍しているのかを見ていくと、新しい世界の動きが見えてくる
のではないでしょうか。たとえば、慶応義塾大学 SDM(System Design Management)研究科の白坂成功教授の活動を追っていくことで、今後の方向性も見えてくるのではないかと考えています。
情報処理推進機構(IPA)では現在、DADC(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)を立ち上げています。これは、システム全体の連携を活用して、新しいアーキテクチャやデザインの考え方を探求するもので、非常に重要な活動だと感じます。
【メンバー】
2018 年に IPA が発表したレポートによれば、システムズエンジニアリングが期待される有効な領域には、IoT のようなつながるシステムも含まれています。私自身も「つながる世界」についてのレポートを読んだことがあります。システムズエンジニアリングは航空宇宙分野で長年にわたり蓄積された知識体系です。なぜこの知識体系が日本に広がらないのでしょうか?
【佐藤】
日本人には抽象的な概念を扱う文化的な習慣がないことが一つの理由だと思います。物理的なものを作ったり、操作したりするのは得意ですが、哲学的な教育はあまり受けていないように感じます。例えば、プラトンのイデアの世界に関連するような、深
い思索をする機会が少ないのです。
抽象的な概念を扱う文化的な習慣についていえば、西欧では一神教の教えもその背景にあると思います。哲学とは、ものごとの
本質や存在についての探求を通じて、神と現実世界を結びつけること解釈もされています。
しかし、日本の宗教観は、多くの面で曖昧さがあるため、抽象的な概念を扱うのが不得意な印象があります。そのため、抽象的な思考を育む教育がもっと必要だと思います。
抽象的な概念を扱う力がないと、システムズエンジニアリングを効果的に活用することは難しいのではないかと感じています。
【メンバー】
日本人は技術思考が強く、「PM では達成することが大事」と言われるが、プロジェクトマネージャーが成功するためには、3 つ
の重要なスキルセットがあります。
1 つ目は、技術的なプロジェクトマネジメントスキルです。計画書を正確に作成し、進捗管理をしっかり行うことが求められます。2 つ目は、人間関係のスキルです。リーダーシップやコミュニケーション能力を活かして、プロジェクトチームを動かし、メンバーのやる気を引き出すことが重要です。3 つ目は、ビジネスや戦略に関するスキルです。
特に最近では、プロジェクトマネジメントにおける QCD (品質、コスト、納期)達成だけでなく、人間関係のスキルの重要性
が増しています。昨年 9 月以降、PMI (Project Management Institute)もこのことを世界大会で主張し始めました。7 年前は 3 つのスキルがバランス良く必要とされると言われていましたが、現在では「パワースキル」として人間関係のスキルが重視されています。
日本では技術的アプローチが多く、「達成すればいい」と考えがちですが、それでは不十分です。この点を私たち PMAJ でもしっかり伝えていく必要があります。
【佐藤】
なぜ日本でシステムエンジニアリングが広がらないのかというと、ご指摘のように、目に見える QCD で評価できるものに価値
があるとされているからです。逆に、目に見えない人間的な部分はあまり重視されていません。つまり、物理的な資源や所有物に価値を見出す一方で、「どうあるべきか」という観点からの価値を軽視しているのです。このことは、経験や体験に対する価値が十分に評価されていないことを示しています。
最近では、旅行会社などが体験型のサービスを重視し始めており、人間的な価値の重要性が語られるようになっています。し
かし、これは主に外国からの観光客がそうした価値を見出しているからであり、日本人自身が人間的な価値の重要性に気づいた
わけではありません。
【メンバー】
これからのプロジェクトでは、QCD (品質、コスト、納期)に加えて、価値がポイントとなります。お客様がそのシステムから
価値を見出せなければ、何のためにプロジェクトを実施したのかという疑問が生まれます。QCD を達成したとしても、結果とし
てお客様が価値を感じなければ意味がありません。この点が非常に気になっています。
P2M の第 3 版には「システムアプローチが基盤」と記載されています。P2M プログラムにおけるプロジェクトマネジメントの
方法論は、これに基づいているのです。それなのに、なぜこの重要な点が見過ごされてしまうのか理解できません。この事実は、システムアプローチに対する認識が不足していることを示しています。
P2M プログラムは、システムズエンジニアリングやプロセスを中心に考えながら、DX 推進のためのフレームワークを構築しました。このフレームワークを利用することで、プロセスや工程を明確に示すことができ、全体を支援するのがプログラムとプ
ロジェクトマネジメントであることがより理解しやすくなります。
【メンバー】
先ほどの「QCD だけを追いかけてきた」という意見には反論があります。私は 40 年間プロジェクトに取り組んできましたが、
優れたリーダーは人をしっかり見て、そうした要素も考慮してプロジェクトを成功させていると思います。日本の成功は、単に
QCD を追求したからではないと私は考えています。
ここ 3~4 年ほど、システムの要素に「人間の感情や心」を意識的に取り入れる試みを行ってきました。それによって何が見え
てくるかと言いますと、システム自体の限界がより明確になるのです。仕組みや制度、データといったもの、先ほど QCD とおっしゃっていましたが、QCD を司るのも結局は人間です。そう考えると、確かに「人間には無限の可能性がある」という意見もありますが、私はややネガティブに捉えています。なぜなら、プロジェクトは通常 1 年以内という短期間で完了するものですから、その期間内に人が大きく変わることはあまりないのではと考えています。
ですので、システムには「この人はこれができない」「この人はやってくれない」「この人は動かない」という要素を入れ込んで考えると、この 3 年間、失敗の予測がかなり正確にできたと感じています。
【メンバー】
システムの境界について、上層のシステムリーダーは外の世界にも目を向ける必要があります。システムの境界外にある要素
を上手に取り入れたり、必要に応じて外に出したりすることが非常に重要です。時には、境界外の要素をシステム内に取り入れたり、逆に外に出したりすることで、柔軟な運営が可能になります。
そのため、境界を強固に保つ部分と柔軟にする部分を見極めることが大切です。この判断は難しく、時には硬い境界が必要です。例えば、コンプライアンスはその一例です。しかし、柔軟な境界もまた必要で、どの部分をどのように運営すべきかを常に意識しておくことが求められます。
【佐藤】
境界が『硬い』とか『柔らかい』という表現が心に響きました。リーダーとして、境界の内側にいるか外側にいるかを意識することが重要だと思っています。
アウトサイダーの視点は大切で、インサイダーになりきってしまうと、表面的な考え方に囚われて、内部リソースに過度に依
存して、外部リソースが見えなくなることもあります。
【メンバー】
私はもともと野球選手、特にピッチャーを目指していた人間です。ピッチャーとしては、ストライクゾーンという一つのシス
テムを意識し、その中でボールを出し入れすることを考えます。一般的に「ストライクは良くて、ボールはダメ」という言い方がありますが、実際はそう単純ではありません。
良いピッチャーは、ボール(ダメとされる要素)も使いながら、バッターを打ち取っていくものです。ストライクだからといってど真ん中に投げればホームランを打たれますし、ボールをうまく投げればバッターを打ち取ることもできます。つまり、ストライクとボールの境界線の捉え方がとても重要だと感じています。
私の父を見てきましたけど、高度成長期のサラリーマンたちは、すごかったです。彼らは外に向かってどこへでも行く人たちで、たとえ砂漠や危険な無法地帯でも、躊躇せず進んでいくような時代でした。今とその時代を単純に比べることはできませんが、閉じた環境や制約のある中では、人々の動き方も限られてしまいます。
そこで重要になるのは、人の心をどうシステムに組み込むか、また外部の影響をどう取り入れて調整するかという点だと思い
ます。これが、今回の話を聞いていて最も感じたことです。
【事務局】
インサイダーとアウトサイダーの視点を行き来することは、リーダーとして非常に素晴らしいことだと思います。ぜひ、別の機会にこのテーマについて講演していただければと思います。よろしくお願いします。
【メンバー】
講演を聞き、境界でイノベーションが生まれるという話が非常に心に響きました。私たちの特許部門でも、専門領域を超えた人材を育成し、より広い視野で活躍できる人を増やしたいと考えています。
現在は、権利化や訴訟に強いスペシャリストを育成していますが、その境界を取り払って新しいものを生み出せる人材を育てたいと思っています。特許部門として、技術者の発明を支援しながら、強い会社を作っていきたいと考えています。さらに、政府からも特許戦略において意見を求められる立場にあり、その中で提案を行っていく責任を感じています。
講演を聞いて、組織図上の境界を超えて、新しい突破口を見つけられるのではないかと思いました。例えば、「これは隣の部署の
仕事だ」と思うのではなく、自分の仕事として挑戦していくことで、イノベーションが生まれるのではないかと感じています。
【メンバー】
日本語は英語などに比べて要素を定義しづらい言語であると言われています。日本語は関係性の中で形成された言語で、例えば英語では「you」という一言で済むところが、日本語では「あなた」「君」「お前」といった異なる言葉があり、相手によって使い分けることができます。これは表面的な違いかもしれませんが、関係性の中で要素を定義する傾向があります。したがって、日本人は要素を定義するのが得意ではないのです。
【メンバー】
PM の講座で WBS (作業分解構成図)を作成してもらうと、なかなかうまくいきません。WBS の捉え方が メンバーによってバラバラで、構造化が難しいのです。しかし、ネットワークを作るように指示すると、そちらはうまくいくことが多いです。
関係性の中では各アクティビティが配置できるからです。このように、最初にネットワークを作成してから WBS に置き換えることで、構造化が可能になります。日本人は日常的に構造ではなく関係を重視する文化があるため、システムズエンジニアリングの取り込みが難しかったのではないかと感じます。
【メンバー】
WBS(Work Breakdown Structure)は作れないが、ネットワークは作れるということがとても印象的でした。私も同じような経験があります。WBS を作ることについて、それは無駄だと言う人もいました。そういう人に対して、うまくコメントできなかった経験があります。そういった人たちはネットワークを作ることはできるだろう、と気づきました。
日常的に人との関係の中で生活しているので、ネットワークを構築することは可能です。その関係性を考えると、組織図を作成
する際に、見えない境界のようなものがあるのではないかと感じています。
【メンバー】
WBS(作業分解構成図)を作成していると、見落としていた部分や、広げるべき視点に気づくことがあります。だからこそ、構造と関係を総合的に見ていくことが非常に重要だと感じます。もしかすると、WBS を作成すること自体が一種の組織図を作る行為なのかもしれません。しかし、何かを解決しようとするときには、ネットワーク図の視点で捉える必要があると感じています。
【メンバー】
組織は、当たり前のピラミッド組織図に縛られるのではなく、ネットワーク的な視点で再構築していく必要があるのではない
でしょうか。組織の境界線を再考することに意味があると感じています。
組織は通常、ワークブレイクダウンストラクチャー(WBS)のように固定化されてしまいがちですが、ネットワーク的な組織
もあり得るはずです。私たちがどのように繋がり、活動しているかを再考することが重要だと感じています。この話を聞いて、私も鳥肌が立つほど刺激を受けました。
【メンバー】
組織論には、生物学やネットワーク理論との共通点があります。例えば、動物の群れや人間の体も、すべてがネットワークでつ
ながっていて、一部が全体をコントロールしているわけではありません。
最近の研究では、脳がすべてを指揮しているという考え方は間違いで、双方向的なやり取りでバランスを保ちながら体全体が機能していることが分かっています。組織も同じで、役割を一方的に定義するのではなく、全体の機能を果たすために各メンバ
ーが柔軟に対応することが求められます。つまり、機能に合致していれば、方法は限定せず、他者と協力してもよい、という考え方です。
このようなアプローチは、日本人に合っていると言えます。また、組織が効果的に機能するには、メンバーが瞬時に最適な選択
をし、全体の目標に向かって柔軟に対応できることが重要です。これができれば、組織は非常に強力になります。
【メンバー】
興味深いのは、西洋とアジアの文化的な違いです。あるデザインの専門家が述べていたように、西洋社会は「境界」を重視し、
城壁や教会を建てて自分たちを守る構造を持っています。対して、日本やアジアの多くの地域では、「環境」を重視し、柱を立てて日陰を作るような柔軟な構造です。このため、境界が曖昧で、外部と内部の区別がはっきりしていません。日本人は特に、この曖昧さを受け入れており、共通概念でぼんやりと動いていることが多いです。
そのため、「自分たちは何を信じているのか」という議論をあまりせず、当たり前だと思っていることが多いのです。この曖昧さ
を逆に利用すれば、より多様で柔軟な組織を作れるかもしれない、と考えています。
【メンバー】
貴重なお話、ありがとうございました。実は、私も話を聞きながら『ああ、そういうことか』と納得することばかりでした。
論理的に話すのは少し苦手で、抽象化思考が本当に弱いと感じています。でも、今回の境界の話を聞いて、多くの点で納得でき
ました。これからは、そういったことを意識して取り組んでいきたいと思います。本当にありがとうございました。
【メンバー】
プロジェクトマネジメント(PM)が誕生した背景として、PM はシステムズアプローチから派生したものであるという理解が重要です。私はこの考えに基づいて講義を行っています。システムズマネジメントアプローチは、根幹となる非常に大切な概念であり、多くの大学で関連する学科が設けられています。たとえば、慶應義塾大学や東京大学の工学部でも教えられています。東京大学では、青山先生がシステムズマネジメントを教えている中、私はプロジェクトマネジメントの臨時講義を担当していました。このように、システムマネジメントとプロジェクトマネジメントは両面から重要視されるべきです。
しかし、現実として、大学や資格制度において、これらの考え方が十分に広がっていないように感じられ、日本の将来を懸念することがあります。50 年前、私が大学生だった頃にもシステムズマネジメントの講義がありましたが、その後、この分野がどのように発展してきたかは疑問です。物事を作る方法だけでなく、社会全体を視野に入れた思考法を学び、それを応用できるようにすることが重要です。しかし、現在どこで教えられているのか、どのように広がっているのかは、まだ十分に明らかになっていません。
その一方で、P2M クラブの第 4 版が発行され、これがシステムズアプローチを広めるための大きなツールになると考えていま
す。IPA 関連の活動や INCOSE での議論を通じて、システムズエンジニアリングがどのように広がりを見せているか、また広めようとしている人々がいることも確認しましたが、その具体的な進展にはまだ課題が残っていると感じています。
【メンバー】
日本には、例えば自動車メーカーや航空宇宙、防衛関連といった大規模で複雑なシステムを扱う業界があります。しかし、一般
の人々が「システムズアプローチ」を学ぶ場は非常に限られており、実感として学校で教わる機会もほとんどありません。そのため、自分で YouTube のようなチャンネルを探すか、大学や大学院でしっかり学ぶことが必要です。特に、システムズアプローチの普及は重要だと感じます。一方で、PM (プロジェクトマネジメント)分野でもシステムズアプローチを取り入れていくことが一つの方法かもしれません。
現在、PM の中でしっかりとしたシステムズアプローチが普及しているわけではないので、その点も考慮するべきです。
【メンバー】
私の経験では、就職氷河期世代として、大学を卒業後、機械設計の仕事に就きました。当時、システムエンジニアリング統括と
いう部署に配属されましたが、その中で実際にシステムエンジニアとしての職務を行っている人はほとんどいませんでした。私
の同僚たちも、機械工学を学んだにもかかわらず、IT 業界に進み、システムエンジニア(SE)という肩書きで働いていましたが、システムズアプローチを学んでいない人が多かったのです。
日本では、SE という職務が正しく定義されないまま、プログラマーやプロジェクトマネージャーとしての役割を混ぜてしまっ
た結果、SE という職業の位置づけが曖昧になってしまったのではないかと感じます。
海外では、特にアメリカやシンガポール、インドなどでは、SE はシステムズエンジニアリングをきちんと学び、職務を遂行して
います。日本でこの職業の導入に何かしらの誤りがあったのではないかと思っています。
【メンバー】
日本では SE は、ソフトウェアエンジニアリングとして捉えられる傾向があります。そのため、システムズエンジニアリングが
きちんと導入されていない部分があると感じます。これからは、ぜひシステムズエンジニアリングの専門家になってほしいと思います。
【メンバー】
社内で課題を解決する際にも、システムズエンジニアがしっかりと役割を果たしている会社では「ここは SE が必要だよね」と
いった会話が自然に出てきます。しかし、日本の多くの企業ではそうしたシステムエンジニアの役割が十分に機能していないことが多いように感じます。そうした部分が弱点だと感じました。
【メンバー】
ソフトウェアエンジニアリング(SE)という言葉はよく使われますが、システムズエンジニアリングという言葉も意識して使
われる場面が多いと感じています。特に、私のように IT 業界にいると、ソフトウェア開発だけでなく、システム全体の開発に携わる人も多く、ソフトウェアとシステムの区別が曖昧になることがあります。
今日の話や他の方々が述べていたシステムとソフトの話を聞いて、私自身も多くのことを学びました。特に、IPA (情報処理推
進機構)のホームページにシステムズエンジニアリングに関する多くのドキュメントが公開されていることは初めて知り、非常
に勉強になりました。プレゼンを聞きながら何度もダウンロードして、原点を読み直していたのですが、IPA がこれほど多くの情報を持っていることに驚きました。佐藤さんの説明のおかげで、新たな気づきが得られました。
【佐藤】
今日は、多くの話題が飛び交い、いつも以上に熱のこもった素晴らしい会となりました。私自身、とても嬉しく感じ、次回に向けてさらに準備を頑張りたいと思います。次回は、2 ヶ月後になるかもしれませんが、ぜひまたご参加いただければと思います。本日は本当にありがとうございました。
以上
今後も「プロジェクト SE 懇談会」というタイトルで、議論を継続する予定です
2ヶ月に 1 回程度で開催していきたいと考えています。ご参加をお待ちしています!
<注>
資料は改訂される可能性がありますのでご了承ください。